海洋散骨事業を営む、株式会社ハウスボートクラブ代表 村田ますみさんへのインタビュー後半です。今回は、毎月実施されている「グリーフわかちあいの会」についてお聞きしました。
上:故人とご遺族と繋ぐ海洋散骨を。
下:ご遺族の気持ちを知ることが良い仕事に繋がる
「わかちあいの会」を行っているのは、これ以上の学びはないから。
運営するコミュニティカフェ ブルーオーシャンカフェ(東京 江東区)で 月に一度、「グリーフわかちあいの会」も実施している。
大切な人を亡くした者同志で語り合い、わかちあうひとときを提供するものだ。
毎月第3水曜日、料金はドリンク代だけ。予約も不要で当日の気分や体調にまかせて参加できる。
実質ボランティアとなっているこの活動を約4年間続けてきた。
多忙を極める中でもこの活動を続けているのには理由がある。
グリーフサポートの実践の一貫として行っているが、さらに「机上の勉強では決して得られない、大きな学びと気付きがあるから」だという。
「散骨の仕事を通じて出会うご遺族とわかちあいの会にいらっしゃるご遺族は、全く違うんだと気付きました。
仕事上たくさんのご遺族とお会いし、コミュニケーションも深めてきたと自負しているところがありました。でも実はご遺族の一面しか見えていなかったんじゃないかって。
散骨のことで打ち合わせする時には、散骨コーディネーターとしての私にご遺族は必要なことをかいつまんで限定的なことしかお話しにならないわけです。
わかちあいの会では一個人の村田ますみとして座っているということもあって、ご遺族はもっと深い部分までお話ししてくださいます」
ご遺族の深い悲しみを理解できる人材を育てたい
「最近、若手の社員にもわかちあいの会に同席してもらっています。
ご遺族の内側にはこんなに深い悲しみがあって故人への愛がある、ということを理解してほしいからです。
ご遺族の深い気持ちに寄り添えなければ良い施行はできないですから」
わかちあいの会でもグリーフサポートセミナーでの学びが大いに活かされているという。
「グリーフサポートセミナーで、橋爪先生は‘’すべての答えはご遺族が持っている‘’と常におっしゃっていましたが、わかちあいの会をやっていると、まさに言葉に尽きると実感します。
それ以上の回答はない。ご遺族から出てくる言葉は心に染みるし、入ってくるんです。100人いたら100通りのご葬儀という言葉があるけれど、ご遺族の心情や状況もひとりひとり違う。
同じように配偶者を亡くした方でもまったく違う反応が起きています。死別直後から、自分の使命をみつけて精力的に動こうとする人がいる一方で、2年以上経っても仕事ができないくらいに力を失ってしまっている人もいます。配偶者を亡くしたらこういうもの、みたいな思い込みを持って、こちらが決めつけちゃうと間違えちゃうんですね」
この場所があるから頑張れる、そう言ってもらうこともあります。
では参加する人たちはどのような想いを持っているのだろう。
「皆さん、ただ話したいんだと思います。どこにも吐き出せていない想いや感情を出したい。励ましもアドバイスも求めていなくて、出したものをただ受け止めてほしい。そう思っていらっしゃる方が多いように思います。
最初は会の進行をどうしたらいいんだろうと、瞑想を取り入れるなどいろいろと試みましたが、やっているうちに何もしなくていいんだと気づいたんです。
ファシリテーターとして気を付けているのは、2時間の間に参加者ひとりひとりが均等に発言できる時間をとること。控えめで他の人の話を聞くばかりになってしまう人もいるし、その逆のタイプの人もいます。
自己表現の時間をバランスよく作っていくことが大事かなと思っています。もちろん話したくないことはお話しいただく必要はありませんが、思っていることを外に出せるとちょっと楽になりますよね。安心感の中で自然に吐き出せる場を作りたいと思っています」
わかちあいの会はリピーターが多く、この場所があるからこの1か月頑張れた、と頼りにしている人も多いのだという。参加を重ねることで変化していく様子が見られることも励みだ。
「初回では、殻に閉じこもってほとんど発言をしないで帰っていかれた方が、翌月も来てくださって、その時にはいろいろとお話ししてくださったり、笑顔も見られて。心が解けていく過程がみられると嬉しいです。
3回ほど連続で参加されて、自然に卒業されていく、というパターンが多いですかね。
この場所をよりどころにしてくださっている方がいるうちはやめられないと思いますね」
支えられた人が今度は支える側に。そんな循環を作りたい。
これからは、参加者だった人が元気になられた時、ファシリテーター役を担ってもらえるような循環を作りたいという。
「辛かった時に支えてもらったから、今度は誰かを支えたいと思う方もいらっしゃいます。支えるという役割を持てると、それは自分の居場所にもなるし、生きていく糧になる。そんな風にご縁のあった人たちとずっと繋がっていきながら、この場を作っていきたいですね」
喪失の痛みを経て回復や成長を遂げて、支えられてきた人が支える側へ周る循環が生まれつつある。
「大切な人を丁寧に見送りたいと思うこと、愛する人を亡くした哀しみ、これは世界共通です。母の死をきっかけに導かれた海洋散骨事業ですが、私は葬祭に関わる仕事に就けたことを、心から誇りに思っています」
村田ますみ氏 プロフィール
株式会社ハウスボートクラブ 代表取締役社長 一般社団法人日本海洋散骨協会 初代代表理事 1973年東京生まれ。 同志社大学法学部政治学科卒業。
一般社団法人グリーフ研究所 グリーフサポートバディ
一般社団法人グリーフ研究所 フューネラルセレブラント
上智大学グリーフケア研究所 グリーフケア人材養成講座に4年間在籍 IT業界、花卉流通業界を経て、2007年 株式会社ハウスボートクラブを設立。東京湾を中心に、パーティークルーズ事業と海洋散骨などのメモリアル事業を展開。2015年国内初の終活コミュニティカフェをオープン。
<関連リンク>
株式会社ハウスボートクラブ
ブルーオーシャンセレモニー (海洋散骨サービス)
グリーフわかちあいの会(株式会社ハウスボートクラブ)
グリーフサポートセミナー(株式会社ジーエスアイ)
セレブラント(株式会社ジーエスアイ)
(取材・文 グリーフサポートバディ 穴澤由紀)