『監察医 朝顔』監修会社エンバーマーの心意気。その人らしさ引き出すエンバーミング。

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現在放映中のフジテレビ系月9ドラマ「監察医 朝顔」の中で、エンバーミングが取り上げられています。

専門的な技術を使って、ご遺体の損傷を修繕したり、その人らしさを取り戻していくことができるエンバーミング。

ドラマでは、解剖が必要なご遺体に対してのエンバーミングが描かれており、特殊なケースに限って用いられるものだと思われた方もいらっしゃったかもしれませんが、実際には一般的な葬送の中で、老衰やご遺体の損傷がない場合でも、エンバーミングが行われています。

エンバーミングを行う代表的なメリットは、次のようなものがあります。
1)ご遺体を生前のお姿に近づけていけること
2)すぐに荼毘にふす必要がなくなるため火葬までのお時間を延ばせること
3)ドライアイスを使うことなくご安置できること
4)ご遺体に残存する病原体を限りなく排除し、衛生的にご安置できること

エンバーミングは、エンバーマーと言われる専門資格を持ったプロフェッショナルが行わなくてはいけません。

 
ドラマの中では、大谷良平さんと山口智子さんがエンバーマー役を演じています。今回、エンバーマーという職業自体をこのドラマで初めて知った、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、「監察医 朝顔」の監修を行った橋爪謙一郎が代表を務める、株式会社ジーエスアイに所属するエンバーマーの一人、牛渡一帆にインタビューをしました。

現役エンバーマーは、どんな思いやこだわりをもって仕事に当たっているのでしょうか?

ちょうど施術が重なってしまったということで、長時間に及ぶ施術の後に、移動中の車内からZOOMで繋がってくれました。

「お疲れのところ、すみません……。ご依頼が集中する場合もあるから大変ですよね」
冒頭にそう労うと、牛渡は疲れも見せず、飄々と笑っています。
 

『いやいや、周囲からそう言っていただくことも多いんですが、自分にとっては好きなことだし、施術中、夢中になってやってるんで苦にはならないんですよ。大変だとか、辛いとか思ったことないです』

エンバーミングの流れを簡単に説明すると、まずは、身体の表面の洗浄や消毒から始まります。

次に、頸動脈からホルマリンを主とする薬液を注入して、腎臓透析と同じ要領で体内の血液と交換します。

それによって、体内のたんぱく質をが固化して腐敗の進行を遅らせ、体内の衛生環境を作ります。

さらに、髪型やお顔を整え、着替えを行い、その人らしさを表現していきます。

基本的には1人ですべての工程をこなします。

故人お一人当たり3時間ほどはかかる一連の施術の中で、ご遺体と向き合いながらどんなことを意識しているのでしょうか。

『エンバーミング中、故人様とやりとりさせていただきながら一緒に進めていっている、という感覚が常にあります』


ただ施術しているのではなく、故人と対話をしているということですか?
 
『エンバーマーはみんな、やり方は違うにせよ、故人様とコミュニケーションしていると思いますよ。

自分の場合は、始める際には必ず、故人様に一礼をして、「よろしくお願いします」と声に出して言うんです。


自分は仏教徒なので手を合わせてもいいんですけど、故人様が仏教徒とは限らないので自分は一礼だけです。


処置に入ってからも普通に話しかけてますね。


ずっと身体の状態を見続けていかなくてはいけない中で、もちろん科学的なケースアナリシス(ご遺体の状態分析)の視点もあるわけですけど、それだけではなくて、その人らしさが分かる部分を見つけるようにしているんです』

その人らしさが分かる部分というとどんなところでしょう?
 
『たとえば、90代を超えているのに歯が揃っていたら「立派な歯をお持ちですね」とか、足の裏に最近できたようなタコを見つけたら、「亡くなる直前までちゃんと自分で歩いていたんですね、すごいですね!」なんて話しかけてますよ。

爪の間に土が挟まっていたら庭いじりがお好きだったんだろうなぁと思いますし、その人の生き様みたいなものに触れていけたらいいなと』

話を聞いていて、どうしてそこまでその人らしい特徴を見つけようとしているのかが気になりました。

『ご遺族も知らなかったような部分を伝えてあげると、喜んでくださることが多いんです。ご遺体を囲んで家族の会話が進んだらいいな、と思っていて。

たとえば、故人様がマスカケ線の珍しい手相だったことを見つけて、それをご遺族に伝えたことがあって、そうしたら、一族の皆さんがみんなで自分の手を見て、息子さんにはなかったけど、お孫さんが同じ手相だったということが分かった時には、その場がちょっと湧いて。


些細なことかもしれないですが、お別れの時に、故人様から受け継がれたものを知って、分かち合えるのもいいじゃないですか』

エンバーマーが、故人の特徴を見つけてあげることで、ご遺族の分かち合いの時間に繋がる。
それは経験を積んでいく中から発見したことでした。

エンバーマーは、ご遺体になった状態で初めて、故人と出会うことになります。
ジーエスアイでは、ご遺族から故人について直接教えていただいてから施術できることもありますが、そのような機会が持てないことの方が一般的です。

(ドラマでは、事前にご遺族とエンバーマーが面会していましたが、実際にはエンバーマーではなく、葬儀会社の担当者が説明やヒアリングを行うことがほとんどです)
 
そのような状況で、ご遺族が満足していただけるような「その人らしさ」をどう作りあげているのでしょうか。

『エンバーミングの依頼書に書かれている内容や、葬儀担当者から連携された情報等を受け取って、できるだけご希望通りに仕上げようとします。

依頼書には細かいご要望をお伺いする欄があります。たとえば、やつれたお顔をふくよかに戻しますか? メイクの濃さはどうしますか?など。その記入内容に沿って対応します』

エンバーミング依頼書の一部

『でも、実際のところ、どんな風にしてほしいかをしっかり説明できるご遺族の方が少ないんじゃないかと思うんです。

一般的に目を閉じた、眠っているようなお姿を作っていくわけですが、まじまじと誰かの寝顔を見ることなんて、新婚の時くらいじゃないですか?


身近な人であっても、生前の目をつむっている時のお顔やメイクの感じなどをちゃんと覚えているわけではないし、ましてや、悲しみが強い時です。言葉でこうしてほしいと説明することは難しいですよね。


そういう言葉にできない部分もくみ取りながら総合的に情報を整理して、一般的なバランスをとって仕上げていきます。


ジーエスアイでは、エンバーマーが施術後にご遺族とお会いする機会を作っているので、ご家族の反応を見ながら、お直しをさせていただくこともあります。


ご遺族の心の中にある故人様を表現できたらと思っているので、表情や傷跡なども、こちらの思い込みだけで進めてはいけないですよね』

治療のためについた傷があるとしたら、それを隠すこともできるけれど、あえてそのままにしておくこともある。

柔らかな微笑みを携えた表情を作ればいいというわけではなく、強さを感じさせる真一文字に結んだ口元にした方がその人らしさが出る場合もある。

固定観念にとらわれず、その人らしさはどうしたら出てくるのか、それをご遺族のご意向とともに作りあげていくのがエンバーミングだ、と牛渡は言います。
 
『いただいたお写真がどの写真も笑っていない表情だったので、もしかしたら生前あまり笑顔を見せない方だったのかな? と察して、あえて微笑んでいない表情にさせていただいたら、その方がしっくりくる、と喜んでくださったご遺族もいらっしゃいました。

自分なりに仕上がりに満足できたとしても、最終的にはご遺族がどう思ってくださるかが全てですから。未だに遺族の反応を見る時が一番緊張します。毎回、ドキドキですね』

エンバーマーという職業は、単にテクニックを磨けば良いというものではなく、ご遺族の意向や思いを汲み取る洞察力や、死別の悲しみに寄り添えるグリーフサポートの要素が求められます。

施術は、冷房が強くかかった無機質なエンバーミングルームで行われていますが、そこにはより良いお別れをしていただきたいというエンバーマーの熱意が満ちているのだと思います。

話を聞いているうちに、故人への敬意やご遺族を思う気持ちが、エンバーミングされた身体にも表現されているはずだと確信しました。

『エンバーミングは、技術力や表現力によって仕上がりも大きく変わります。

組織の中での均一化を図っていくことを目指すより、エンバーマーも研鑽を続けたうえで個性を出すべきなんじゃないかと……。生意気ですけど、そう思っているんですよね。


料理の世界だって、この人の料理を食べてみたい、と指名で選ばれる料理人がいますよね。


いずれ、エンバーマーも選ばれる時代になると思います。


「希望通りではなく期待以上」に仕上げたい、というのをモットーに、これからも技術を磨き続けていきたいですね』

その目は未来を捉えていました。

 


ジーエスアイ所属 エンバーマー
牛渡一帆(うしわた かずほ)

・IFSA認定エンバーマー(EMB0122)
・IFSA認定スーパーバイザー
・IFSA認定業務管理者
・1級葬祭ディレクター
​・(一社)グリーフサポート研究所認定グリーフサポートバディ(GSB034)



(書いた人:グリーフサポートバディ 穴澤由紀)


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