自身の体験から海洋散骨事業に関わり、さらには遺族ケア、終活や高齢者支援など、精力的に活動されている株式会社ハウスボートクラブ代表の村田ますみさん。
日々大切にされていることや、グリーフサポートの取り組みについてお話を伺ってきました。2週に渡ってお届けします。
上:海洋散骨で故人とご遺族を繋ぐ
下:ご遺族の気持ちを知ることが良い仕事に繋がる(3月6日アップ予定)
最初は試行錯誤の連続だった
「海洋散骨は埋葬の代わりではなくて葬儀の一形態だと思っています。故人をたたえ、人々がわかちあえる時間を提供したい」
海洋散骨サービス「ブルーオーシャンセレモニー」を運営する、株式会社ハウスボートクラブの代表 村田ますみさんは、海洋散骨をそう位置付け、葬送の儀式性を重視している。
海洋散骨とは「祭祀の目的をもって、故人の火葬したあとの焼骨を海洋上に散布すること」をいい(一般社団法人日本海洋散骨協会のガイドラインより)、自然葬のひとつである。
世界と繋がっている海と一体となりたい、お墓を持ちたくない……さまざまな想いから、海へお骨を撒くという弔いの形を選ぶ人たちがいる。
村田さんは自身の母親を沖縄の海に散骨した経験がきっかけとなり、2007年に海洋散骨を提供する事業を興した。
繁忙期では月80件以上の施行を行う。
「冬の時期は寒いですから船を出すことはまれです。ただ、ご予約のお電話は、毎日ひっきりなしにご予約のお電話が入ります。春のお彼岸以降は、とても忙しくなりますね」
今でこそ集客も安定しており、提供サービスも確立されてきたが、最初から軌道に乗っていたわけではないという。ニッチマーケットでの事業展開は茨の道だった。
潜在的にニーズを抱えている人たちとどうしたら繋がっていくことが出来るのか。
海洋散骨を選択した人たちの想いにしっかりと応えていくには、事業者としてどうあるべきなのか。
試行錯誤の時期が続いたという。
あるご遺族との出会い
そんな中、村田さんの心を揺るがす、あるご遺族との出会いがあった。
「葬儀社経由でいただいたご予約でした。
故人様は若い女性で、ご主人とお子さんを残しての旅立ちでした。
ご遺族の悲痛なご心情を察しながら打ち合わせに出向くと、意外なほど落ち着いていらっしゃいました。
お父さんは淡々とお話しされ、その横でお子さんも静かに遊んでいて。
感情的な面を一切出されないご家族でした。
葬儀からしばらく経っていたので、ある程度心の整理がついていらっしゃるのだろう、そう思っていました。
でも、そんなことなかったんです。
散骨当日、いよいよ海にお骨を撒いていく段階になった時、それまで穏やかにしていたお子さんがお母さんのお骨を抱きながら、わぁーと声を上げて泣き始めました。とても激しく。
その姿を見て、私、どうしたらいいのか分からなかったんです。私も母親ですから、子供さんが辛そうにしていると、とくに助けてあげたくなる。
何もできなかった自分に落ち込みました。無力感ですよね」
それまで、これほど取り乱すご遺族に会ったことがなかった。これがグリーフ(死別による悲嘆の状態)というものなのでは、と直感的に思ったという。
お子さんがそれまでずっと落ち着いて冷静だったのは、気持ちの折り合いがついていたからではなく、死別の現実を受け入れていなかったからではないか? 遺骨を海に撒くという段階になって、はじめて母親との死別を実感したからこそ、やっと泣くことができたのではないか。
「グリーフという言葉自体は知っていたけれど、それは死別直後のご遺族に現れるものだと思っていました。
散骨は死別後、一定の時間をおいてから行われることがほとんどなので、お会いするお客様はグリーフの段階を超えた方々だ、というような認識だったんです。
散骨クルーズの雰囲気は、割と明るいことが多いのです。大きな空と青い海を見ながら、船の上で自然と笑顔になったり。少なくとも葬儀で見られるような、泣き崩れるご遺族の姿はほとんどありません」
この出来事がきっかけで、ご遺族の心情をちゃんと理解できていなかった自分を痛感したという。
「グリーフの学びをしなければいけないと思いました」
グリーフサポートの学びで得られたもの
扉を叩いたのは、知人に勧められたジーエスアイのグリーフサポートセミナーだった。
学んでいくうちに、死別から時間が経っていてもその悲しみや苦しみを強く感じている人が多いこと、死別体験の反応は人それぞれで多様性があることを実感した。
「むしろ死別から時間が経っている人の方が、苦しみが深いかもしれない。最初は心配してくれている人がいても、少し時間が経過するともう大丈夫だろうと思われてしまう。そうなると誰にも気持ちを話せなくなってしまって、心にぽっかり穴が空いている人も多い。
そのことが分かったのは大きな気付きでした。ちゃんとご遺族の話を聴こうと思ったんです」
ご遺族にお別れの時間をよりよく過ごしてもらうために、故人のことをもっと知る必要があると感じた。
「葬儀社と違って散骨業者は死亡診断書がいらないんです。
目の前にお骨があるだけで、故人様とご遺族の物語が見えてこないんですね。
だからこそ、こちらが意識を持っていないと、亡くなった方がどういう方で、どういう想いや経緯があって散骨を望んでいらっしゃるのか、ということが分からないまま進んでしまいます」
グリーフを学んでいなかったらどうだったと思うか、という問いに、村田さんはこう答えた。
「同じ散骨事業でも、まったく内容が違っていたものになっていたと思います。
現在行っているサービスのほとんどは、グリーフサポートの一貫で行っているものです。
たとえば、ご遺骨の扱い方にもこだわりを持っています。
まず、事前にご遺骨をお預かりするのですが、可能な限り、ご自宅まで出向かせていただきます。ゆうパックで送ってもらえば、こちらとしては楽ですし、利益率も上がります。でも、事前にご自宅に伺うことで、ご遺族から故人様のことをじっくり聞かせていただくことができます。散骨に向けて、ご遺族の心の準備に繋がっていきますし、私たちとの信頼関係を結べることによって、当日安心して乗船いただけると思うんですね」
海にお骨を撒いておしまい、というものにはしたくない、という。
「散骨にまつわる一連のプロセスを大事にしています。
散骨の際、ご遺骨をパウダー化するのですが、その作業もご遺族に関わっていただくことをお勧めしています。そのための専用部屋も作りました。
パウダー化を行うにあたって、まず、ご遺族の手で骨壺を開けていただきます。
骨壺を開けるということは、心の蓋をあけることに繋がっていくのではないかと考えているからです。
心の中に押しとどめていた、いろいろな想いが湧きあがっていく。それを安心できる環境の中でそっと受け入れていく、グリーフワークの時間です」
その他にも、散骨後も故人を海上から偲ぶことのできる「メモリアルクルーズ」や、手元供養品の積極的な推進などは、グリーフサポートの視点を組み込んで実施しており、それが結果的に他社との差別化になっている。
儀式のプロフェッショナル「フューネラルセレブラント」という新しい資格も取得
村田さんは昨年、フューネラルセレブラント®の資格も取得した。
フューネラルセレブラント®は、故人やその家族の意思、信念、価値観、文化的な背景などを反映させた儀式をプランニングし、運営できる役割のことだ。
アメリカでは、セレブラントがデザインした葬儀は全体の6割を超えるとも言われている。
日本ではまだ浸透していないこの資格を、いち早く取得した背景には、どんな思いがあるのだろう。
「ご遺族と接する中で、今の一般的な葬儀に満足されていない人も多いんだなと感じるようになりました。
葬儀を直葬だけで終わらせたと聞くと、経済的な理由からだと思ってしまうかもしれませんが、実際はそうではなくて、他のところにお金をかけて弔いをなさっているケースもたくさんあります。
たとえば、葬儀社を通じて火葬だけを行ったあと、散骨のお申込みをいただき、船の上でご親族、ご友人を呼んでしっかりと儀式をしたり、ご遺骨でダイヤモンドを作られたり、かなりのご予算を使われる方もいらっしゃるんですね。
固定概念にとらわれず自分たちらしく見送りたい、というニーズが高まっていると感じます。
それで、お別れの儀式というものを幅広い視点で考えてみたいと思い、セレブラントを学ぶことにしました。
同時期に、ドイツ、オランダ、ベルギーへ葬送に関する視察旅行に行ったのですが、ヨーロッパでは宗教を軸としない儀式が多くなっていることを知ったんです。教会で葬儀を行わなくなっているそうなんですね。
そうなると、よりオリジナリティ性のある儀式が求められるので、儀式を司るコーディネーターが活躍しているんです。
現地で、お葬式の形はどのように変わっていっていますか? と聞いてみると、こういう言葉が返ってきました。
” 故人をたたえる祝福、セレブレーションの場であること。
故人を中心として想い出をわかちあう場であり、人々が繋がる場であることを大切にしています。
故人を象徴するシンボル、映像、光、音楽、食事、心地よい空間、感謝の表現などが練られて、場が創り上げられていくんですよ” と。
まさにセレブラントで学んだことと同じだ、とすっと腹落ちしました。 今後、この貴重な学びを具体的に活かしていきたいと思っています。どういう形になるかはまだ模索中ですが、ブルーオーシャンならではのお別れの儀式というものをご提供できたらと思っています」
※次回「ご遺族の気持ちを知ることが良い仕事に繋がる」に続きます。 (3月6日18:00アップ予定)
村田ますみ氏 プロフィール
株式会社ハウスボートクラブ 代表取締役社長 一般社団法人日本海洋散骨協会 初代代表理事 1973年東京生まれ。 同志社大学法学部政治学科卒業。
一般社団法人グリーフ研究所 グリーフサポートバディ
一般社団法人グリーフ研究所 フューネラルセレブラント
上智大学グリーフケア研究所 グリーフケア人材養成講座に4年間在籍 IT業界、花卉流通業界を経て、2007年 株式会社ハウスボートクラブを設立。東京湾を中心に、パーティークルーズ事業と海洋散骨などのメモリアル事業を展開。2015年国内初の終活コミュニティカフェをオープン。
<関連リンク>
株式会社ハウスボートクラブ
ブルーオーシャンセレモニー (海洋散骨サービス)
グリーフわかちあいの会(株式会社ハウスボートクラブ)
グリーフサポートセミナー(株式会社ジーエスアイ)
セレブラント(株式会社ジーエスアイ)
(取材・文 グリーフサポートバディ 穴澤由紀)