ヘンなご遺族

まどかの窓

皆さま、こんにちは!
ジーエスアイの平島です。

  

いつまでも残暑が続くかと思いきや、急に涼しくなり、朝晩は寒くなりましたね。
半袖から一気に上着を羽織る季節に……秋の服を着られる日はあとどれくらいあるでしょうか。
すぐにセーターやコートを着なければいけない気温になってしまいそうです。

最近、自宅の付近を歩いていると夫が「いい匂いがする」としきりに言うのです。
気のせいだと答えていたのですが、よくよくまわりを見渡すと、キンモクセイがオレンジ色の花を咲かせていました。

意外と私よりも鼻が利く夫に感心しつつ、気にして道を歩くようになると
あちらこちらにキンモクセイが植えられているんだなと気付きます。

キンモクセイ、いい香りですよね。
皆さまはキンモクセイの香りから、どんなことを連想しますか?
私は自分のふるさと、懐かしい子どもの頃を思い出す香りです。

秋は何だか切なく懐かしい気持ちになる、平島です。

 

 

さて、今回は私が葬祭ディレクターとして働いていた頃にお会いした、
あるご遺族のお話を少し書いてみようかと思います。

私がディレクター3年目くらい、まだグリーフサポートに出会う前に担当したそのご家族は、 おじいさんとおばあさん、それにお孫さん(男性)の3人家族でした。
ご夫婦が70代くらいだったと記憶しているので、お孫さんはまだ20代前半だったと推測します。
お孫さんのことを、ここでは「Aさん」とさせて頂きます。

入院していたおじいさんが亡くなり、おばあさんから葬儀の依頼が入りました。
自宅は片付けていなくてご安置が難しいからと、直接式場の遺族控室に入りたいとのご希望で 病院へお迎えにあがり式場までお連れしました。

 

「なにを勝手なことをしてくれたんだ!病院へ連れ戻せ!」
開口一番、Aさんの怒鳴り声が電話口で響きました。

お布団へご安置し一息ついた時、やっとAさんと連絡が取れて、
「直接葬儀社のスタッフと話がしたいと言っている」とおばあさんから言われ、電話を代わりました。

「病院へ連れ戻せ?」
いままでご遺族からそんなお叱りを受けたことはもちろん、同僚や上司からもそんな話は聞いたことがありません。

そして続けてこう仰るのです。
「何で俺より先に、隣のおばさんがそこにいるんだ!いいから帰らせろ!」
Aさんと連絡が取れないからと、わざわざ同行してくれたおばさまに向かって「帰れ」とは、 なんてひどいことを言うんだろう。

その時点で私はAさんを「ヘンな人」と認識してしまったのです。

 

病院へ連れ戻すのは現実的に考えて難しいことは何とか理解してもらい、
私は指示通り式場からご自宅へ故人様を再搬送し、Aさんの帰りを待ちました。

Aさんは夕方には帰宅し打ち合わせに伺いました。
私はAさんにまた理不尽に怒鳴られることを想定して、上司に付き添ってもらい打ち合わせに臨みました。

Aさんは電話口より大分落ち着いた様子で、私にこう仰いました。
「僕が送ったメール、見てくれませんでしたか?」

冒頭でも触れたようにこのご遺族は、事情があっておじいさん、おばあさんと孫であるAさんの3人家族でした。
おじいさんに死期が迫り葬儀のことが頭をよぎった時、Aさんは「自分が喪主を務めなければならない」と悟ったのでしょう。

まだ若く葬儀の知識も無く、それでも喪主としてしっかりおじいさんを送らなければ……と
「何も分からないので、その時はどうぞよろしくお願いします」
という思いのこもったメッセージを、会社のお問い合わせフォームに入力してくださっていたのです。

しかしそのメッセージはその他のたくさんのメールに紛れ、社内で共有されることができませんでした。
そして「その時」を迎えました。

 

グリーフの最初の段階に「ショック」「否認」という状態があります。これは人が本来持っている防衛本能で、大きなストレスから身を守るため一時的に自分の周りにバリアを張ったように外部の情報をシャットアウトしている状態です。


おじいさんが亡くなった第一報を受けたものの、まだ状況を飲み込めない中で、既に病院におじいさんはおらず、自分の知らないところで勝手に葬儀の段取りが進んでいる。

いやだ、受け入れたくない、亡くなる前に時間を戻せないのなら、せめて病院で看取るところからやり直したい。
きちんと自分の手で、葬儀のすべてのことを決めていきたい。

そして死別の悲しみが爆発的な感情となり、口から出た言葉が「病院へ連れ戻せ!」
だったのではないか、と今となって振り返ります。

 

しかし、そんなAさんを「ヘンな人」と決めつけてしまった私は
グリーフにともなうAさんの行いや言動、また放出される感情もすべて「ヘンな行動」と決めつけました。
ヨコの位置ではなく、とても上の位置から見下して見ていたのだと思います。

そして私は結局、このご葬儀の担当を自ら降りました。
病気になったことにして先輩に代わってもらい、Aさんと向き合うことを放棄して逃げたのです。

 

これを読んだ皆さまはなんてひどいディレクターだと思うでしょうが、
こんな事例って実は葬儀社の中で結構頻繁に起こっているのではないか、と思います。

これまでにたくさんの「ヘンに見える」ご遺族にお会いしたり、
「こんなヘンなご遺族がいてね……」という話を聞いたりもしましたが
グリーフサポートを学び、グリーフの視点を持って接するようになると、まったく違ったものが見えるようになりました。

「ヘンに見える」その行動はグリーフの状態から表出されているのではないか?
ご遺族の言葉の裏にある本当の思い、感情を読み取ってみよう。
そんな視点を持って接すると、彼らは決して「ヘンなご遺族」などではなくなます。
そして、ご遺族が私たちに教えてくださっているたくさんのメッセージに、気付く事ができるようになります。

もし、爆発的な感情をぶつけるご遺族に出会ったとしても、ただ「怖い」という感覚で終わらず勇気をもって思いを聴こうとすることができるようになります。
私があの時グリーフサポートを学んでいたら、Aさんから逃げずに向き合えたのではないかと思うのです。

 

私たち葬儀の現場に身を置く人は、正しいグリーフの知識を持つことが必要不可欠です。
その上で、それぞれが持つ、あたたかみや思いやりのあるサポートマインドでご遺族と接していくこと。
そうして、グリーフの状態で苦しんでいるご遺族たちが、ただの「へんな人」で片づけられてしまうことなく、意義深いお見送りのひとときを過ごして頂けるような葬儀をたくさん増やしていきたいですね。

 

 

ということで今回は、私が出会ったご遺族のお話をさせて頂きました。
それではまた、お会いいたしましょう!

※実際のケースをヒントに、設定などを変え再構成しています。

 

(書いた人:平島 まどか)

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