困難な状況の中で、不安な心をやる気に変えるリーダーシップ論

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コロナ禍葬祭最前線インタビュー第二弾は、東京と神奈川を中心に葬送関連事業を営んでいる株式会社吉澤企画 代表取締役 吉澤隆氏へお話を伺った。

吉澤隆氏

(株)吉澤企画は、葬送に関する人材派遣業、搬送業、葬義の運営等の事業を展開しており、現在派遣登録者を含めて、約140人のスタッフを抱えている。

コロナ拡大の影響を最も受けているのは、人材派遣分野だそうだ。

普段は、受注に対して供給が追い付かず、常に採用を行っている状況だったが、感染症拡大を防ぐために葬儀の小規模化や短縮化が一気に進み、人材派遣の受注件数は激減。

待機状態を強いられている派遣スタッフも多くなってきている。

コロナとの闘いの中で、吉澤氏が特に気にかけていることはスタッフのメンタルケアだ。

仕事が少ないことでの不安を感じたり、志気の低下を招いてしまうのではないかと危惧している。

また、見えないウイルスを回避しながら業務を遂行するという命題は、スタッフひとりひとりに恐怖やプレッシャーを植え付けることにもなりかねない。

困難な状況の中で、スタッフの精神的安定を維持することは重要な課題だ。

停滞の空気に包まれているこの時期、スタッフのメンタルケアやモチベーションの維持に頭を悩ませている経営者も多いだろう。

経営者の他にバイクレーサーという顔を持ち、グリーフサポートバディ、森田療法をベースとするコンストラクティブ・リビング(CL)のインストラクターでもある吉澤氏は、不安や恐怖に向き合う時のメンタリズムを熟知している。

その吉澤氏に、困難な時期を乗り越えるためのリーダーシップ論について語っていただいた。



___コロナの影響はどんなところに出ていますか?


葬儀業や搬送業の方はあまり影響を受けていないのですが、人材派遣の分野が一番打撃を受けています。

3月の売上は前年比30%減、4月は前年比45%減と強烈なダメ―ジを受けています。

派遣スタッフは仕事がないとあぶれてしまうので、有給休暇制度を活用してもらったり、雇用調整助成金の支援をお借りして、なんとか彼らの生活を守りたいと思っています。



___スタッフの皆さんのメンタル面はどうですか?


それはやっぱり、不安を抱えているメンバーが多いですね。
情報不足と誤解が生じている時は、不安を強く感じやすいと思うんです。

なので、まずは情報不足を減らさなくちゃと思って、家で待機しているスタッフに定期的にコンタクトをとっています。

派遣スタッフは、そもそも自社内で仕事をすることは少なくて、出向いた現場でそれぞれ業務をしているので、横のつながりが少ないんですね。

適切な情報を取り入れる努力をしないまま、ひとり家に居続けたら、自分だけこうなんだろうかと孤立感が深まっていったり、デマに振り回されやすくなる。

そうやって不安が独り歩きしてしまうので、意識的にこちらからコミュニケーションをとるようにしています。

話をして、正しい情報を得ていくだけでも、少し安心感が出てくるようです。




___正しい情報に触れていくことで不安が軽減されるのですね。そのほかに気にかけていることはありますか?


仕事がなくて家で待っている状態が続くと、やることがなくなりますよね。
ゲームやネット、漫画などで過ごしているスタッフもいると思います。

でも、この時期をどう過ごすかによって、これからの成長に繋がっていくでしょうし、どうにか前向きな気持ちでいてもらいたいんですよね。

なので、三密を避けて研修をしたり、読んで欲しい本を「課題図書だ」といって勝手に送り付けたりもしています。嫌がられているかもしれませんけどね(笑)

そういう働きかけもしていますが、何より自分が挑戦している姿勢を見せるのが大事だなと思うんですよね。こういう時期だからこそ、心意気を見せるぞ! とね。


___どんな心意気ですか?

はい、この時期に短時間でニュービジネスを立ち上げる姿を見せるぞ、と決めまして。

ビジネスモデルを作り、関係各位とももろもろ調整させていただいて、ちょうどスタートしよう、というところなんですが。

折に触れ、その取り組みへの思いをスタッフにも伝えてきました。

変化がないと不安が拡がっちゃうのでね、こちら側が新しいことにチャレンジしていくことで、少しでも仕事を通して可能性を感じてもらえたらと思っています。

逆にやるからには、スピード感を持って成果を出していかないといけない。
きちっと成果を出さないと、そんなことやっているから派遣業がうまくいかないんじゃないの、と余計にスタッフを不安にさせてしまうかもしれませんから。

ソーシャルディスタンスと換気を心掛けながら、担当社員は研修のブラッシュアップを練っている。



____やる気が出なかったり、落ち込みがちな人が多くなっているかもしれませんが、どんなコミュニケーションを心掛けていますか?

近くにムードを変えてくれる人がいると違うと思うんですよ。

自分は会社で、疲れた態度や落ち込んだ様子は見せないようにしていますね。
心配事があっても、「おれ、マジ仕事楽しいぞ!」と。

「今日はおれが話をするから付き合ってくれ」といって集まってもらって、ホワイドボード片手に新プロジェクトの話をして「な、うまくいきそうだろう?」と熱く語ると、案外その雰囲気に乗ってきてくれます。

めんどくさいなと思っているスタッフもいるかもしれないけれど、楽しそうだなとか、うまくいきそうだなという明るいイメージを抱かせてあげたいんです。

方法論だけでは人はついてこない
かっこいいな、楽しそうだなという感情が伴うと自発的にやりたくなると思うんです。

まずは相手に対してこちらから関心を示すことも大事ですよね。
こちらが歩み寄って、相手の話を聞きながら関係性を作ってからでないと、ゴールイメージを見せても共感してもらえないですから。

「面白そうだし、自分も頑張ってみようかな」という思いを引き出して、自然に巻き込んでいきたいですね。


____コロナウイルス対策としては、どんな方針を持っていらっしゃいますか?

4月初旬に、コロナウイルスで亡くなった方の搬送依頼を受けたのですが、その時は準備が整っていなくてお断りをせざるを得なかったんです。

それがとても残念で申し訳なかったので、次からはちゃんとお受けできるようにしたいと思って準備してきました。もう今は受けられる体制が整っています。

コロナで亡くなったご遺体は扱わないという方針の葬儀会社さんもいますが、弊社はどうやったら安全な形でお引き受けできるかを考えていきました。

コロナのこともプロとして男気を見せようぜ、とスタッフに伝えています。

もちろん、無茶なことはしないですよ。
ちゃんと慎重に取り組んでいく必要があります。
特に大事だなと思うのは、ひとりひとりのマインド作りです。

スタッフには「コロナウイルスで亡くなった方をお迎えに行くとしたら、自分はどうするべきか?」ということを考えてもらうようにしています。

まず当事者意識を持って、正しく恐れてもらいたいんです。

危険に対処していく時には、頭で考えているだけじゃなく、ハートでキャッチしていくことがとても大切なんですね。

ハートが反応しているかどうかで、危険察知能力とか行動が変わりますから


___感染防止対策についてのガイドラインのようなものはあるのですか?

感染防止対策は、ジーエスアイの橋爪先生にも相談させてもらい、かなり厳格なガイドラインをすでに作ってあったんです。

今回のコロナ対策に適用していこうと、社内に浸透させていっているところですが、一方で、ガイドラインありきで行動させるのも、実際にはきっと難しい部分があると思っているんです。


___ガイドラインに沿った運用だけでは対応できないということでしょうか?

感染症対策について基礎知識を身に着けて、正しく危機感を持つという意味では、ガイドラインはとても有効です。

ただ、実際には、ガイドラインに推奨されているような環境下で進められない現場だとか想定外の現場というのも当然、出てくるんです。

感染症の指定病院以外の施設や変死の現場にも向かいますので、すべてのケースに当てはめられない。

現場のスタッフは、ご遺族の心情を優先させたくなっちゃうので、ついつい危険を顧みずに行動してしまうものです。

うちは心意気だけで突っ走りやすいやつもいますから(笑)
それをどう守るかというのがぼくの役割だと思っているので、仕事の流れをコントロールできる仕組みが必要だと思っています。

防護服を着ての訓練の様子

___具体的にはどういうことですか?

(発注元である)葬儀社さんからご依頼があった時には、「僕たちのペースで進めさせてください」というのを徹底することにしました。プロセス管理の主導権を握らせてもらうということです。

どうしても我々の中には、「基本は緊急対応」という意識が強く、葬儀社さんから連絡が入れば今やっていたことを置いて現場にかけつけるというのが根付いています。
 
ただコロナの疑いがあるケースについては、初動の時にしっかり全体像を把握して動くことが重要です。

安全性と確実性を優先するためには、まず必要な情報を揃えること。次に病院、保健所、火葬場との連携が直接取れる体制を作る。ケースに応じて必要な道具や手順が社内で定まったところではじめて出動する、これを徹底することにしました。

ご遺族のニーズに全力で応えたいという現場の心意気は大事にしてあげたいから、そのうえで安全管理をするには、スタートのところの舵取りをしっかりするしかない。

コロナに罹患された方の搬送はまだ実績はありませんが、防護服の着用からお連れするまでの流れの訓練も行いましたし、スタッフひとりひとりに二次感染を防ぐための意識が高まってきたのを感じています。


全体の仕組みや体制を整えつつ、現場のマインドをどう良い形で保っていくか。それが大事だと思っています。

(インタビュー、文:穴澤由紀)


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