[きよみのみかた-14]安室ちゃんと終活とグリーフサポート

きよみのみかた

あけましておめでとうございます。

今年もグリーフサポートラボをよろしくおねがいいたします。

昨年、久しぶりにお会いした方に「きよみのみかた」を楽しみに読んでいます(^^) と言われたり、年始のメールをいただいた方からは、「わかりやすい事例でとても参考になります」と言っていただき、気を良くしております(笑)

楽しみにしてくださっている方がいらっしゃると知って、とても嬉しい気持ちになりました。

これからも続けて行けるよう、無理せずに頑張ってまいりますので、どうぞお楽しみに。

さて、2019年最初の「きよみのみかた-14」は安室ちゃんと終活とグリーフサポート
なんだ?というタイトルですが、今回は「 終活」についてグリーフサポートの視点からお話ししたいと思います。

9月16日に安室奈美恵さんが歌手を引退されました。

その日を迎える前に、NTVで毎日5分ずつカウントダウン的な短い番組をやっていました。

録画していたものを、つい先日まとめて見る機会があったのですが、その番組の中で彼女がインタビューに答えるシーンがあり、その中で彼女の歌うことに対する思いや、これまでの思い出などを話していたのですが、1つびっくりしたことがありました。

彼女は、10年も前からいつか期限を決めて引退すると考えていて、引退を決めた時には、2度とステージで歌ったり踊ったりしたいと思わないように、時間をかけて歌うことや踊ることに向き合って、心の整理整頓をしていたのだというのです。

引退した後、カラオケで歌っちゃおうかなー、と思って歌うことはあっても、ステージに戻って歌いたいという欲求が湧かないように、とことんライブに向き合って、作り上げて、まぁ、簡単にまとめてしまうと悔いのないように、彼女は10年かけて心の整理整頓をしてきたのです。
そして、明確には5年前に引退するという期限を決めて、やりきることを考えてきたということでした。

今思えば、引退を発表してからの活動は、LIVEにBESTアルバムにと、とってもアグレッシブだったし、それによって、安室ちゃん自身だけでなく、ファンの人たちや、長年一緒に楽曲やライブを作り上げてきたスタッフも、ラストの沖縄ライブの日に向かって、それぞれがそれぞれの気持ちの整理をしてきたのでしょう。

何よりもファンの人たちの気持ちを考えて、1年かけて引退を受け入れてもらえるよう、アルバムを出したり、海外も含めてライブを行ったり、ライブに来れない人にもその雰囲気を感じてもらい、共に時間を共有して来たことを思い出すことができるように、展示会まで開催しています。

彼女がこうして”その日”を迎える準備をしてきたのは、安室ちゃんが何よりも大事にしているファンのことを思ってのことだった、と言うことも話していました。

この話を聞いて1番に思ったのが、安室ちゃんは、「安室奈美恵」という歌とダンスと共に生きた25年間の人生に対する終活を、時間をかけてしてきたんだということです。

そして、自分の歩んで来た足跡を、ファンにとっては思い出として心に留めておいてもらうことまで配慮して最後を迎えたことは、正直、インタビューを聞いて驚きました。

彼女が引退するということは、芸能界から「安室奈美恵」いなくなるということだけではありません。

彼女のデビューから考えると、多くの人が「安室奈美恵」という歌手と共に夢を追って生きてきた人がいます。それは、彼女を支えてきたスタッフや、多くのファンです。

彼女は90年代のファッションリーダーでもありましたので、かつて彼女と同じ格好をしていたことがある人もいるでしょう。

もし安室ちゃんが突然引退して目の前から急に消えてしまったとしたら、そういう思い出も、自分の心の置き場所を見失ってしまうのです。

本人は気持ちの整理がついていたとしても、周りの人たちは、みんなそれぞれの見方で安室ちゃんを見ているので、意外とあっさり折り合いがついてしまう人もいれば、気持ちの整理に時間がかかる人もいます。

だからこそ、1年をかけて日本だけでなく海外にまで行ってライブを行ったことは、ある意味引退の「儀式」になったのではないかと思いました。

ファンにとって、安室ちゃんがいた「これまで」と芸能界には安室ちゃんがいない「これから」は大きく違うでしょう。9月16日以降、過去の映像は見ることができても、これからの安室ちゃんを見ることは二度とないのです。

「儀式」は、「これまで」と「これから」の区切りに行われるもので、時間軸に、印の様なものをつけることなのではないかと思うのです。
自分自身にいつ変わり目があったのかという、目印の様な物とも言えるかもしれません。

ファンの人たちは、最後に行われたライブをいつの日か振り返って、それまでの楽しかった日々を思い出すことができるし、それと共に、あの頃は「アムラーだったよねー(大笑)」とか言って自分の人生も振り返ることができるかもしれません。

でも、もし、今回のライブがなかったとしたら、安室ちゃん本人が引退したこと自体もなんとなく流れていってしまうし、それと同様に、共に生きて来た時間も流れて行ってしまうような気がするのです。そして、引退したことをずっと受け入れられず、また復活するんじゃないかとずっと期待する人もいる気がします。

SMAPしかりです。

「儀式」については、今、儀式の専門家である”セレブラント®”の勉強をしていますので、また自分の身に着いた時に改めて「きよみのみかた」で書いていくことにして、「終活」話を戻します。

今「終活」を考えている方や既に始めている方は、自分の人生の終わりを考える時、遺される大切な人のことを考えていますか? つまり皆さんは彼女がファンのことを考えたように、家族のことを気にした終活をしているでしょうか。

私は往々にして、「終活」は、自分のことだけを考えて整理することばかりに集中しているように思います。お金を始めとする遺産のこと、自分が使っている物、お墓についてなど、目に見えるものだけを自分が整理しておけば、迷惑もかけないから安心だと思っていないでしょうか?

うちの会社ジーエスアイで、毎年クリスマスの前に「ホリデーサポートグループ」という、大切な人を亡くした方の分かち合いの会を開いているのですが、その際に、話をしていただくきっかけにもなるので、亡くなった方を思い出して心が温かくなったり、その人が傍にいてくれる感じがする、これがあると勇気が湧いてくる、そんな風に思える物を持ってきていただきます。

その品は、大切な人が身に着けていたものであったり、その人を思い出す曲のCDであったり、いわゆる形見として持ってきてくださったものは本当に人それぞれで、当たり前かもしれませんが、同じ様なものを持って来た方は1人もいませんでした。

自分がこの世からいなくなった後、遺される家族は多かれ少なかれグリーフの状態になります。自分も他の家族や友達に対して、それぞれ関係性に深さの違いがあるように、家族もそれぞれの深さの関係性があるので、亡くなった人が生前に思っている以上に、遺された人が死別後に深いグリーフの状態になることがあるのです。

そう考えると、自分だけの判断で色んな物をどんどん整理してしまった時、他の家族がその人を思い出して気持ちを整理したり、その人が側にいてくれると感じて、明日も頑張ろうと思えるように側に置いておきたかった物を始末してしまったら、遺された人が大切な人を亡くした悲しみと折り合いをつけるために必要な物が存在しない可能性があるのです。

遺族となった人にとって何が大事な物に変わるのかは、生前には家族同士でもなかなかわからないものなのです。


また、遺せるのは「物」だけではありません。安室ちゃんの場合は、引退してもたくさんの楽曲というものがあって、万が一彼女が亡くなることがあっても、それは歌い継いでいくことによって後世に受け継がれていくものです。

しかし、そういったものがない私たちでも、例えばおふくろの味といわれるものは、それと同じような意味を持つのではないかと思います。

橋爪家では、どこでもあるようなメニューですが、子供たちが私の作るカレーやハンバーグ、ポテトサラダなどが他で食べるものより好きだと言ってくれます。

たぶん、彼らにとって私のカレーやハンバーグが「橋爪家のおふくろの味」なのだと思いますが、たとえ市販のルーを使っていたとしても、オーソドックスなメニューだからこそ、実は何かしらその人独特の作り方や隠し味などを使っている場合が多くあります。

ですから、私が彼らのお嫁さんたちにレシピを遺していくということも、自分が亡くなった後にそのレシピでカレーを作ってもらえたら、「もしかしたら私のことを忍んでくれるのかしら・・・」などと、思うことがあります(笑)。


今回、安室ちゃんは、1年という時間をかけてファンと最後のその日を迎える準備をし、ライブの中ではファンのリクエストで歌う曲のセットリストを作り、自分の好きだった曲をライブの体験と共に心に刻み遺してくれました。

この点では、SMAPの突然解散に比べたら、安室ファンの皆さんは引退という喪失感に対して、かなりソフトランディングできているのではないでしょうか。

今、終活中の方、これから終活しようと思っている方は、どうかご自身のことだけを考えるのではなく、遺される方のことも是非気にかけていただけたらなと思います。迷惑かどうかは、遺される人に是非聞いてほしいと思います。

そして、できることなら安室ちゃんのように、遺される人と一緒に整理整頓をしたり、自分のことを話す時間を持っていただきたいなと思います。

物質的な相続だけでなく、思いの相続があればこそ、遺された人が気持ちの整理をつけるためにできるグリーフサポートになるのですから、

(書いた人:橋爪清美)

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