保育園看護師に聞いた、グリーフを学んでいて良かったと思うときは?

あなゆきnote

今回のグリーフサポートラボでは、グリーフサポートバディで看護師の真保すみえさんのインタビュー記事をお届けします。

真保さんは、約10年間に渡り、高齢者看護の経験を積まれ、現在は保育園看護師として、主に園児の健康管理、特に体調を崩しやすい0歳児の看護に当たっています。

お年寄りから赤ちゃんへと看護の対象が大きく変わったわけですが、どんなステージでもグリーフサポートの視点が役立っていると言います。
グリーフサポートの学びを仕事やプライベートでどう活かしているのでしょうか?

 

___前職では、訪問看護師として高齢者の看護をなさっていたのですよね。 保育園看護師に転身されたのはどんな理由があったのですか?

もともと介護や福祉に興味があって、丸の内OLから訪問ヘルパーになり、働きながら勉強して30代に入ってから看護師になったんです。
 看護師としてのキャリアのスタートも療養型の高齢者病院だったので、ずっとお年寄りの看護に当たってきました。
延命治療や介護の現場で、死と近いところでの寄り添いを続けてきて、そろそろ、違った経験したいなという気持ちが湧いてきたわけなんですが、その転身を決断できたきっかけは、「良いお看取りを経験できた」からなんです。


___良いお看取り?

訪問看護師として、最後に担当させていただいた利用者さんは100歳を過ぎていらして、大往生でした。
お亡くなりになる瞬間に私も立ち会わせていただいたのですが、お子さんやお孫さんに囲まれながらの最期のひとときがとても胸に来るものがあって……。終始、温かい雰囲気に包まれていました。

「おじいちゃん、あの時、こう言っていたよね」
「一緒にあそこに行って楽しかったね」
などと、枕元でご家族が思い出話に花を咲かせている。

お別れだから悲しいんだけれど、会話の中心に死にゆく人がいて、優しい空気が流れていて、ご家族から愛されていることが伝わってきました。これ以上、素敵なお看取りはないなぁと思ったんです。

それまで、療養型病院で多くのお看取りに立ち会ってきましたが、正直、残念な気持ちになることもありました。
たとえば、患者さんが死にゆくベッドサイドで、遺産相続や葬儀費用の話をしていたり、家族同士がいがみ合っていたり、という光景も少なくありませんでした。
「まだ、お亡くなりになっていないし、声も聞こえているかもしれないのに……」と憤りを覚えることもありました。
だから、心のどこかで、良いお看取りってなんだろう、っていう疑問があったんだと思うんですよね。

この時、家族に囲まれながらのあったかいお別れを経験させてもらったことによって、自分なりに納得できたというか、満足感がこみあげてきて……。
あぁ、良かった。素敵なお看取りを経験できた、と思ったら、次のステージに行こうという気持ちになりました。


___なるほど。それで、大きく舵を切ったのですね。実際に、保育園看護師というのは、どんなお仕事なのでしょうか?

保育園の看護師の役割は、園全体に関わる健康管理全般なんです。
具体的に言えば「子どもの健康」「職員の健康」「保護者・家庭の健康」ですね。
ですから、子どもの健康管理はもちろん、職員の健康管理、衛生指導、さらには子どもの家庭にまで気を配らなければなりません。



___同じ看護師でも、きっとこれまでの病院でのお仕事とは違うことも多いですよね?

はい、そうなんです。
職員のほとんどが保育士さんで、看護師は私だけですし、医療ではなく保育の場ですから、今までの環境と大きく異なり、最初は戸惑うことが多かったですね。

まず、自分が看護師としてどういう立ち位置でいたらいいのかが分からなかったですね。
病児保育を提供している園ではないので、登園されるのは元気なお子さんばかり。
平常時には看護を必要とされていないので、今までの看護経験が直接的に生かせる場面というのはあまりないんです。
  
今までだと、患者さんやご家族からありがとうと言ってもらえることも多かったんですが、保育園では直接、保護者の方とお話する機会もほとんどないので、お役に立てている実感が湧きにくいというのもあります。

最初は少しジレンマを感じていたのですが、看護師という存在自体が、皆さんに安心感を与えているということに気付いたんですね。

職員の方々も医療者としての意見を重視してくれるし、見学に来た親御さんも「看護師がいる園なら安心」とおっしゃってくださる方が多いです。

いざケガをしたり、病気になったりという時に、適切に対処してもらいたいとか、安全に園の推進ができるように見守ってもらいたいという部分で期待されていると感じるので、いわば「お守り」的な存在で頑張ろうという気持ちでいます。


____グリーフサポートの学びは今のお仕事でも役に立っていますか?

主に0歳児のクラスにいるのですが、彼らは最初の3,4ヵ月は毎日グリーフなんですよね。
私のいる園では月齢8ヵ月以上からお預かりするので、入園時がちょうど人見知りが始まる頃なんです。
「また今日もお母さんに置いていかれた」という気持ちなんでしょうね。
お母さんがそばにいない悲しみや恐怖で不安定になっている赤ちゃんに、「ここは安全な場所だよ」というのを感じてもらえるように寄り添っていくわけですが、これもグリーフサポートの一種だよなと思います。

一方、親御さんも入園してしばらくは落ち着かないお気持ちだと思うんです。
ずっと母子一体で過ごしていた生活が一変して、赤ちゃんと離れ離れになるわけで、我が子を置いていく寂しさや罪悪感を感じる方もいらっしゃいます。

新型コロナウイルスの問題もあったので、今年の春先は特に、子どもも親御さんも、職員も、心が不安定になりやすかったと思うんですね。
ストレスが溜まっていないかな? 無理していないかな?
自然にそのように周囲の人達の心の機微を感じ取ろうとしている自分がいましたね。
それは、グリーフサポートを学んだおかげだと思います。

  

___グリーフサポートを学んでいなかったら、ちょっと違っていましたか?

そうですね。グリーフサポートを学んだからこそ、俯瞰力や洞察力がついたと思います。
保育園看護師は、クラスの担任をするわけでもないし、親御さんと直接かかわることも少ないので、全体を見渡しながらバックアップする立ち位置にいます。

ちょっと離れたところで俯瞰しているのですが、保育にどっぷり浸かっていないからこそ、気付きがあるんです。

保育士を取り巻いているお子さん、お子さんの中にいる保育士、といった構図で全体を見ているので、違和感や変化に気が付きやすくなります。

また、子どもが言葉ではうまく表現できていない部分を察していくというのも、グリーフの学びが生かされていると感じています。
たとえば、子どもがどこか身体の痛みを訴えてくる時、痛いのは身体ではなくて「心が痛い」というメッセージだったりすることもありますよね。
 


___仕事以外でも、グリーフサポートを学んでよかったな、と感じることはありますか?

グリーフサポートセミナーを受講している頃は、母親を亡くしてまだそれほど経っていない頃だったので、自分のグリーフに向きあっていました。
グリーフの学びを進めていくにつれて、暗闇から抜け出していけたな、というのが実感としてありますね。
そして、世界を見る目が少し優しくなったというか、受け入れられる心の度量が大きくなった気がします。
周囲の人がちょっと気になる言動をしていたとしても、頭ごなしに決めつけることなく、そういうこともあるよね、そういう時期なのかもしれないね、と見逃してあげたり、待ってあげられるようになったんですよね。
正しさだけで判断しないで、その人の弱いところを受け止めてあげられるようになったなぁと思っています。

(インタビュー、書いた人:穴澤由紀)


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