見えないニーズを掘り起こしながら訪問看護のニューノーマルを作っていく

見えないニーズを掘り起こしながら訪問看護のニューノーマルを作っていく

新型コロナウイルスの治療に関わる医療機関のニュースは連日のように報じられてきましたが、同じ医療分野でありながら、訪問看護の現場に関する情報はあまり伝えられてこなかったように思います。

訪問看護の利用者の多くは、感染症にかかった場合の重症化リスクが高いとされる高齢者層でもあるため、慎重な対応が求められる分野のひとつには違いありません。

今回は、訪問看護業界における今回のコロナ騒動による影響やニューノーマルへの取り組みについて、訪問看護ステーションを経営している株式会社ホスピタリティ・ワン 代表取締役社長 高丸慶氏にお話を伺いました。

高丸さんがこの道に進むことになったのは、母親が寝たきりだった祖父を何年にも渡って自宅介護をしていたそうで、小さい頃からその様子を見ていたことが原体験になっています。

また、高校時代に「死の準備教育(death education)」という、大切な人の死が人に与える影響や死生観について考える授業を受けたことをきっかけに、グリーフや遺族ケアについて学びたいと思い立ち、新設されたばかりの慶應義塾大学看護医療学部へ進学されたという経歴をお持ちです。

グリーフサポートバディでもある高丸さんが考える訪問看護の課題や今後のありかたとは。

(※6月25日に行われた取材に基づいた内容です。)


___特に自粛を強く求められていた4月~5月頃、訪問看護分野ではどんな影響があったのかをお聞かせください。
まず、経営面で打撃はあったのでしょうか?

高丸氏: 私もちょうど今、業界としてのインパクトについて調査しているところでして、全国の訪問看護ステーションの平均で見ると、15%ほど売り上げが減少しています。


ただ、個別にみると、影響を受けているところとそうでないところに分かれており、すべての事業者が同じように落ちているわけではありません。


売上が落ちてしまったところはリハビリを行っている事業所が多いようです。
リハビリは接触することが避けられませんし、リハビリを少し休んだからといって、命にかかわることにはならないだろうと、リハビリを休止された方が多かったと思います。



____高丸さんの運営施設は売上に影響がありましたか?


高丸氏: 私のところではほとんど影響がありませんでした。
むしろ案件が増えているくらいです。

入院から在宅に切り替えたいという、主に富裕層からのニーズが高まったからだと思います。

たとえば、入院中の病院で陽性者が出たことで不安になった方が、同じクオリティのケアが受けられるなら自宅に戻りたいと在宅医療を希望するケースですね。
病院の面会制限も厳しくなっていましたし、緊急事態宣言を受けて、在宅医療のニーズが高まったと思います。



___なるほど。しかし、在宅で療養をされる方もコロナの影響がなくなるわけではないですよね? 利用者さんにはどんな弊害がありましたか?

高丸氏: 2、3か月、まったく外に出られず、リハビリもできずとなると、活動量が圧倒的に減ってしまって、足腰が弱くなったとか、関節に問題が出てきたというような、身体機能の低下がみられたケースもありました。

第二波がやってきて、また制限が強くなっても、ケアやサービスの質を落とさないような準備をしていかなくてはと思っています。



___第二波への取り組みもなさっているのでしょうか?

高丸氏: そうですね。どんな状況になっても、皆さんの体力を維持し、機能を低下させないように、仕組みとして考えていかなくてはと思っています。
たとえば、オンラインを使ってのサービスを充実させていく取り組みですね。

すでにオンラインリハビリのサービスも出始めています。
フィットネスクラブがやっているような感じで、オンライン通信サービスを用いて、グループ形式でリハビリのやり方をお伝えしたり、ご家族の方にケアの仕方を覚えていただくんです。直接お会いしてのケアが難しくても、なんらかの形でケアが持続できるような仕組みづくりはもっと考えていかなくてはと思っています。
 

___緊急事態宣言中、運用面ではどんな問題が出ましたか?

高丸氏: 訪問看護ステーションに勤務しているスタッフは、子育て中の人が多いのです。
お子さんが休校になったことで仕事を休まざるを得なかったスタッフもいたので、人員の確保やシフト調整に多少影響が出ましたね。

他にも、仕事上の感染症対策について不安を抱えるスタッフは多かったと思います。
それはマスクや防護服など必要な備品が不足していて、万全の体制で仕事が出来なかったからですね。



___必要な備品が揃わない状態だったのですね。

高丸氏: はい、本当に困っていました。大きな病院や施設では、業者さんが優先的に備品をおろしてくれますが、小規模事業者である訪問看護ステーションにはそのようなことはありません。

備品確保のルートが途絶えてしまっていたので、一般の方と一緒に街のドラックストアに並んで、マスクなどを買い求めるしかありませんでした。


___それはビックリです。医療現場であっても一般のルートで買うしかなかったんですね。

高丸氏: 業者さんは、大規模な病院や介護施設への対応を優先されます。

訪問看護ステーションの多くは小規模事業所なので、業者さんからしたら、ビジネスの対象としては分が悪いわけです。

営利企業とすれば当然の対応だと思います。
ですが、このように未曾有の状況が起きた時には、訪問看護ステーション個々の努力だけで立ち向かうには難しいものがあると感じました。

備品調達面だけではありません。
陽性者が発生した場合の連携の問題も悩ましいのです。

もし、利用者さんやスタッフに感染者または濃厚接触者が出てしまったら、休業も考えざるを得ないので、利用者さんに他の施設に移っていただくことも考えられます。

病院の場合は、一時期他の病院に移られても、その後、もとの病院に戻られるケースが多いですが、訪問看護ステーションの場合は、一度転所された方が戻ってくることはほぼないんですね。

そうなった場合の経営へのインパクトは相当なものになります。
売上の減少はもちろん、またご契約を一から集めていく営業コストもかかってきます。

ですから、もし一人陽性者が出てしまっただけで、一気に経営が傾くというリスクもはらんでおり、どの訪問看護ステーションさんも不安と隣り合わせの状況だと思います。

国は「病院から在宅へ」と言っていますが、実際のところ、こういうことがあっても国のサポートはないし、自助努力だけでは難しい、という現場の声が上がり始めています。


___ご遺族支援という観点では、コロナ禍での対応の難しさは感じられていますか?

そうですね。コロナ拡大以降、お看取りのケースが出ていないのですが、最期のひとときを迎える際に、さまざまな制限があることで、ご遺族の悲しみが深まっていくようなことのないようにと思っています。

人同士の物理的な接触を控えながら過ごさなければならない状況が続くことで、ご遺族の孤立を招きやすいのではないかと心配しています。定期的にお手紙を出すなど、こちらから接点を作りながら、ご遺族にも寄り添っていきたいです。

___今後、訪問看護業界はどうなっていくと思いますか?

高丸氏: 今回、小規模事業者の抱える脆弱性があぶりだされたことで、業界再編が進むかもしれませんね。

経営者の中には、今回のことで1年分の利益が飛んでしまったという人もいます。先が見えない不安定さを抱え、廃業を視野に入れている人も少なくないのではないかと思います。

従業員側も、今回のように備品の調達さえも自分たちで用意しないといけないとなると、なんでも揃っている大手で働きたいと思う人が多くなるかもしれません。



___高丸さんはもともと保険外サービスを充実させた幅広い訪問看護サービスを提供していますが、アフターコロナも見据えて、これからどのような取り組みを考えていらっしゃいますか?

高丸氏: 現行の訪問看護の形にしがみつくつもりはないです。
もともと、国が提供している訪問看護だけだと、患者、家族のニーズを捉えきれていないという問題意識から、ホスピタリティ・ワンを立ち上げたので、ニーズを常に拾って応えていくという方針はこれからもずっと中心においていくと思います。

介護保険、医療保険だけではニーズをカバーしきれません。たとえば、グリーフサポートやご遺族の精神的ケアというようなサービスは、国の保障制度では賄えない。

保険外のサービスなので全額自己負担で利用してください、となると、利用できるのは富裕層に限られてしまいます。

ニーズは確かにあるのに叶えてあげられないというのはジレンマを感じます。
自助から互助へと視点を変え、なんらかの支援の手が入れば、多くの人がニーズを満たしていくことができるんじゃないか、そのような検討を関係各所と行っています。

また、訪問看護に求められていることのひとつは、繋げることだと思っているんですね。

次の世界にどう繋げてあげられるか、そのコーディネイト力が大事になってくると思っています。


___次の世界に繋げる、とはどういうことですか?

高丸氏: 患者さんに一番近くにいて、すとんと入り込めるのが看護師なので、どれだけ正確に患者さんが望んでいることをキャッチできるか、そしてベストな解決方法をみつけていくことが一番大事だと思うんですね。

自分たちがなんでもやろうとするのではなくて、それぞれの専門家に繋げていく。

お悩みを聞いて、薬の問題だと分かれば薬剤師、エンディングのことだと分かればエンディング分野の専門家……そうやって繋いでいければ、質の高い問題解決のお手伝いができます。

患者さん自身、自分のニーズをはっきりとわかっていないことが多いので、フロントラインにいる看護師は、隠れたニーズまで拾い上げる能力や、横断的に判断できる能力が必要なんです。

また、そのニーズに応えられるよう、常に一流の専門家を用意しておきたいと思っています。

患者さんがのび太君で、ぼくがドラえもんだったら、ちゃんといい道具を出したいんで。笑。

さまざまな分野の引き出しを多く持っておいて、患者さんやご家族のニーズに合わせて適切なコーディネイトをしていくことが今後、訪問看護の現場で求められていくだろうと思っています。

現在、大学の講師として教育にも携わっていますから、そのようなスタンスで患者さんに寄り添える看護師の育成もしていきたいですね。



<高丸慶氏 プロフィール>


株式会社ホスピタリティ・ワン 代表取締役社長
・慶應義塾大学看護医療学部卒業(一期生)
・慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科修士課程修了
・慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科博士課程単位取得退学
・デジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツ研究科修士課程修了
・看護師、保健師、居宅介護支援専門員
・一般社団法人訪問看護支援協会 代表理事株式会社おくりびとアカデミー 取締役
・一般社団法人グリーフサポート研究所認定 グリーフサポートバディ

高校で「死の準備教育(death education)」の授業を受けたことがきっかけで、グリーフに興味を持つ。

グリーフや遺族ケアが学びたいと思い立ち、新設されたばかりの慶應義塾大学看護医療学部へ進学。学部内で一期生として入学した唯一の男子学生だった。

卒業後は、外資系グローバルメディカル企業である、ジョンソンエンドジョンソン株式会社に入社。マーケティング等のビジネスを経験したのち、大学院へ進学し、患者支援や介護保険制度についての研究を行う。

医療保険、介護保険と自由診療を組み合わせ、患者、家族のニーズにオーダーメイドで応えていきたいという思いから、株式会社ホスピタリティ・ワンを起業。

現在は、松蔭大学看護学部の講師として教鞭を執っており、看護師の育成にも力を入れている。

(記事を書いた人:グリーフサポートバディ 穴澤由紀)

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