「大切な存在を亡くした人」を支えている人へ

Ken's Room

〜セルフケアという贈り物を自分に与えて下さい〜
【Ken’s Room】

株式会社ジーエスアイの橋爪謙一郎です。
2001年にアメリカから帰国して以来、“大切な人を亡くした時に必要な支えが提供される”と同時に“支えている人に支えが提供される”社会ができたら良いなという思いで、グリーフサポートについて伝えてきました。

2019年は、介護や終末期医療、地域包括ケアに関わっている方々に接する機会が増え、感じたことがあります。今年も終わりにきて、大切な存在を支える仕事をしているみなさんに、ぜひ思い出して欲しいことがあるので、今日は久しぶりにお伝えします。

支えているあなたは、誰から支えを得ていますか?

「ワークライフバランス」、「働き方改革」などの言葉は、いろいろな場面で耳にする機会が増えました。内閣が働き方改革の推進をすることを宣言し、法制化をしてから、これらの言葉は、さらに注目を集めるようになっています。しかし、介護、医療、地域包括ケア、葬儀などの職業に従事している人は、クライアントが困っている時に放っておくわけにはいかない場面や生死に関わるようなケースに、自分の働き方や私生活の部分を後回しにせざるを得ないことも多いのではないでしょうか?

しかし、組織としては、働き方改革を実施しなければ、経営者に罰則が科せられるようになるので、現場にいる職員に「なんとか休んで」、「なんとか仕事のシフトやりくりして」という指示がおりてきて、「一体どうすれば良いの…」という途方にくれることがあるという、悲鳴に近い現場の人の生の声を聞くことも増えています。

そんな状態のままで、レベルの高い仕事を続けられるのでしょうか?

問題を起こさない範囲の仕事だけをする様になるのではないでしょうか?

それでは何のために仕事をしているかわからなくなるとお話しされた方も数多くいました。自分らしく、そして自分の能力を、助けを必要としている人のために活用していくには何が必要なのでしょうか?

それは、支える人が必要な支えを得ることだと僕は考えます。

自分自身に問いかけてみて下さい。

「支えているあなたは、誰から支えを得ていますか?」

「支えているあなたは、誰に助けを求めますか?」

多くの人は、「自分は、大丈夫」って自分を鼓舞しているのではないかと思います。

気力で何とか乗り切ることは、数回であれば可能だと思います。でも継続的にとなるとそれは難しいことです。

尊い仕事には苦労が伴うもの

介護、医療、地域包括ケア、終末期医療、葬儀、宗教者の方々の役割は本当になくてはならないものだと思いますし、尊い仕事だと僕自身強く確信しています。

しかし、我々は、そして誰一人として「スーパーマン」や「スーパーウーマン」ではないのです。セルフケアは、言うなればクライアントや患者とその家族に対して「良いケア」を提供するために必須のものであり、その重要性をもっと多くの人が認識しなければならないと思います。

日々病気と闘っている患者さんやその家族の身体的な痛みだけでなく、心の中に溢れ出てくる苦悩や罪悪感などと接すること自体が、我々を「燃え尽き (Burnout)」にさせる可能性を高くするのです。

今の自分の状態を把握するために、以下の質問に直感で答えてみて下さい。

燃え尽きの兆候に気づくための10の質問

過去1年間の自分の生活を振り返り、以下の質問に「はい」「いいえ」で答えてください。

  • いつも疲労困憊で、気力も常に足りていないような感じがしますか?
  • 家でも職場でも、周囲にいる人に対してイライラしたり、我慢しきれなかったり、怒りやすく感じることが増えていますか?
  • 同僚や友人に対して距離を感じたり、皮肉っぽくなることが増えていますか?
  • 頭痛・胃痛・腰痛や、なかなか治らない風邪のような、身体の不調を訴えることが多くなりましたか?
  • 気持ちが落ち込むことが多かったり、突然気分が変わったりすることが多いですか?
  • いつも忙しいわりに、何もやり遂げられていないように感じますか?
  • 集中することや、記憶力に関して困難を感じることが増えましたか?
  • 自分の周りで困っている人すべてを助けるのは、自分であると思い込んでいますか?
  • 自分がどんなに努力をしても、満足を感じることができないでいますか?
  • 自分が役に立てることなど、もう無いように感じますか?

「はい」の数を数えてみて下さい。

「はい」の数が多ければ、「燃え尽きている」可能性が高くなっています。

「はい」の数が、

2−4までであれば、「燃え尽き」への初期段階。

5−7であれば、「燃え尽き」かけていて、対策の必要性が上がっています。

8−10であれば、「燃え尽き」ていて、今すぐに対処しなければいけない状態と言えます。

「燃え尽き」の状態とは、自分に必要なケアを得る必要性が上がっているということです。

自分自身へのセルフケアが不可欠な理由は、少なくとも3つあります。

1)私たちと私たちの家族は幸せな人生を送る権利があり、私たちの幸せは、他の誰かがかなえてくるものではないから。

介護、医療、そして大切な人を失った家族を支える葬儀、宗教、カウンセラーなどの心理職などは、やりがいを感じられる仕事ですし、満たされた様に感じられる仕事だと思いますが、仕事が我々の私生活まで満たしてくれるものと思うことはできないし、思うべきではないのです。

2)仕事自体が、身体的、情緒的、スピリチュアル的にエネルギーを消耗させるものだから

介護、医療、そして大切な人を失った家族を支える葬儀、宗教、カウンセラーなどの心理職などの仕事を通じて、クライアントやその家族に関わることは、対人関係を築き、信頼関係を作り上げるプロセスを必要とし、その過程は、集中することを求められ、我々のエネルギーを使わざるを得ません。

クライアントやその家族のニーズを満たそうとすればするほど、感情的に関わりを持たずいられる確率は低くなっていきます。仕事に携わる中で、心の中に溢れてくる自分自身の感情を我慢したり、仕事と割り切るなどしてコントロールして働くと言う意味で、「感情労働」とも言われるようになってきています。だからこそ、時には、その様な仕事から自分自身を解放してあげることが必要なのです。

3)十分なセルフケアをしておかなければ、クライアントやその家族が必要としているサポートやケアを提供できないから。

セルフケアが足りていない時には、相手は支えを必要としていても、「そばにいてくれている (Be with)」感覚を感じて貰いにくくなるのです。みなさんに距離や壁を感じ、事務的に対応されていると思うのです。「お願いしたことは、やってくれるけどね…」とクライアントやその家族が思っている時は、助けてもらえていないと感じているのです。

だからこそ、継続的に自分自身に「セルフケア」と言う贈り物をしなければいけないのです。

どんな「セルフケア」の贈り物をすれば良いのか?

ストレスを解消するための気晴らしや、リラクゼーションなどをすれば十分なのかと言うとそうではありません。自分の仕事の仕方やこだわり、さらには「どんな時でもお客様には“心からの”笑顔で」というような、職場におけるルールなどを見直すことなども必要です。

仕事にこだわり、向上させようとする姿勢は素晴らしいのですが、もしそれが、「完璧主義」を目指したものだったり、「〜すべき」と言葉が仕事の中に溢れていたとするならば、どんなに個々人が自分を良い状態に保とうとしたとしても、働く場が、燃え尽きを生みやすい環境となっているため、十分なセルフケアにはならないのです。言うなれば、組織的な「セルフケア」の取り組みも必要だと言えるでしょう。

自分自身で取り組む上でのガイドラインのいくつかを紹介します。

自分自身を支えるサポートの仕組みを作る

職場でもそれ以外でもどちらでも良いので、自分の話を最後まで聴いてくれる人を少なくとも3人見つけて下さい。どんな事を話したり、感情をあらわにしたとしても、否定したり、求めてもいないアドバイスをされない人に、「愚痴」でも良いので、ため込んだ事を話だけでもすっきりするはずです。

その時、相手には、「アドバイスを求めているわけではないから、最後まで話を聴いて欲しい」と伝えた上で話をすることも効果的です。

もし愚痴をこぼすことも難しい場合は、ノートに感じるまま、思うままを書く事も効果的です。文法や論理など気にせず、浮かんできるまま書いて下さい。

リセットして自分が元に戻る時間を作る

最も簡単に燃え尽きる方法は、無理して手を広げたり、自分ができる以上の役割や責任を背負う事です。リセットするためには、意識的にその時間や場を作ることが欠かせません。休みの日には料理も作らない、掃除もしないと言う日が1日ぐらいあっても大丈夫です。自分のしたいことを目一杯やる日を作って下さい。何もしない時間をあえて取ることは、これほど忙しくなった現代では、意識しなければできないのです。自然の中でぼーっとする時間を過ごして下さい。

感情を出す

一般的には、感情には「ネガティブ」なものと「ポジティブ」なものがあると言われますが、感じてはいけない感情なんてありません。もちろん感じたままを誰かれ構わずぶつける訳にはいかないと思いますが、その感情自体をネガティブとか、そんな感情はプロとして持つべきではないなどと否定する必要はないはずです。

安全な場で、感じた事を正直に話して、自分だけではない事を知ったりすることも効果があります。あるいは、感情が湧き上がってくるような時間を作ることも大事です。好きな音楽を聴いたり、美術館に足を運んだり、美味しいものを食べたりして、感情を出すようにして下さい。

これらは、ごく一部ですが、誰かを支えるためにはセルフケアをすることが不可欠で、そして、そのこと自体も多くの人は学んだことがないでしょう。

株式会社ジーエスアイでは、グリーフサポートを学ぶカリキュラムの全てのレベルで「セルフケア」を身につけてもらえるように設計しています。

もし、興味が湧いたり、「自分はセルフケアが足りてないなあ」と思った方は、ぜひご連絡ください。

(記事を書いた人:橋爪謙一郎)


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