新型コロナウイルス拡大の影響を受け、最期のお別れの形も変わらざるを得ない状況となっている。
3月下旬、愛媛県松山市で、同じ通夜・葬儀に参列していた4人が感染したという報道があり、緊急事態宣言も発布されたことで、葬儀にも自粛モードが広がり、小規模化させた形で葬儀を行っているケースが増えている。
また、新型コロナウイルスで亡くなった志村けんさんや岡江久美子さんのご家族は、最期のお姿を見ることは叶わず、ご遺骨になってからの対面とならざるを得なかった。
未知の感染症との闘いのために大切な人とのお別れにも立ち会えない、そんな現実が起きていることに多くの人が胸を痛め、恐怖を感じているだろう。
一方、葬送に携わる人々にとっても、試練の時だ。
感染防止対策を講じるためこれまでの運用を見直し、制限のある中でよりよいお別れの場を作るために頭を悩ませている。また、葬儀の縮小化によって経営状況が悪化している会社も多い。
グリーフサポートラボでは、「感染対策とグリーフサポートの両立を考える」をテーマに、コロナ禍における葬送の最前線でグリーフサポートを実践している方へのインタビューをシリーズでお届けすることにする。
今回お話を伺ったのは、和歌山県にある株式会社辻本葬祭 代表取締役 辻本和也氏。
新型コロナウイルスの感染者が和歌山県内で初めて確認されてから2カ月半。
2020年5月8日正午の時点で感染者は累計で62人(うち1人死亡)になった。
全国的に見て爆発的に伸びている地域ではないが、予断は許されない状況だ。
新型コロナウイルス拡大を受けて、葬儀に影響は出ていますか?
私どもは家族葬専門で、もともと小規模の儀式を提供しているということと、和歌山県内のコロナ感染はまずまず抑えられていることもあって、今のところ大きな影響は受けていません。
感染防止対策はしっかりとやらせていただいたうえで、お通夜、ご葬儀は行っています。件数も変わらないですね。
ただ、皆さんの意識が変わってきたのを感じます。
3月末くらいまでは、県内の感染者数が少なかったこともあり、危機感を持っている人が少なかったように思いますが、4月に入り全国で緊急事態宣言も出されましたので、「これはやっぱり人を集めたらダメだよな」という声が聞かれるようになり、感染防止の意識が上がってきました。
ひとりひとりの危機感が高まったことによって、ご遺族にご理解をいただきながら、感染防止策を講じていくことができていると感じます。
感染防止策としてどんな取り組みをしていますか?
まず、一般的に言われていることはすべて対応していますね。
従業員は、出社してから退社するまでは常にマスクを着用する、館内は換気消毒を徹底する、アルコールスプレーを携帯し、お客様が一度使ったものは都度消毒を行う、といったことです。
式場内は当然席の間隔をあけていますし、入場は入れ替わりにして、一定数のご入場があったら、次の方は少し待っていただくという入場制限もしています。
お通夜やご葬儀の時間を延ばし、いつ来ていただいてもお焼香ができるという体制にもしていますので、密集が起きない形で進められています。
一番リスクを感じているのは、他県からウイルスを持ち込まれることです。
特に和歌山は県外に進学や就職をされている人も多いので、ご遺族やご参列者も県外からいらっしゃる率が高いのです。
近隣の大阪や兵庫など、感染が拡大している地域からの移動によって、和歌山県内にも感染が広がるリスクを一番気を付けないといけないと思っています。
和歌山県では死亡者が1件(4月30日現在)ということで、まだコロナでお亡くなりになった方のご遺体の受け入れの事例がほとんどないと思いますが、実際に受け入れる場合の想定はできていますか?
新型コロナウイルスで亡くなったご遺体の取り扱いについて、業界で統一されたガイドラインのようなものはまだ存在せず、運用は各事業者に委ねられている状態となっています。
厚生労働省は「非透過性納体袋に収納、密封されている限りは特別な感染防止策は不要で、遺体搬送を遺族らが行うことも差し支えない」としていますが、専門家にお聞きしたり、情報を集めていくと、納体袋に包まれた状態だけでご遺体の取り扱いを行うのは、感染防止策としては十分ではないと私は考えました。
葬儀社は感染症のプロではないですし、実際の現場ではさまざまな人間が関わりますので、できうる限りの対策を講じておく必要があります。
お客様、地域、従業員を守っていく責務がありますし、私達が介入する中で感染を広げないためにどのような運用にしたらいいのかを検討しました。
納体袋に全身を密封していただいてお棺に納められた状態であれば、感染リスクはかなり抑えられるということなので、そこまでを医療機関で行っていただくことが望ましいと判断し、和歌山県内にある感染症指定病院に対して、葬儀組合を通じて協力要請を出しました。
私達、葬儀社は納棺されたところから受け継がせていただきたいということです。
医療機関側の手間が増えてしまうことなので心苦しいのですが、ご遺体に触れるプレイヤーを制限した方が全体で考えた時の感染リスクは少なくできます。
各指定病院から了承のご連絡をちょうどいただきましたので、この運用でいこうと思っています。
このように直接、医療機関と葬儀組合が話し合いを行いながら、調整を進めています。
自治体は拡大を抑える施策や、現在治療中の患者への対応を最優先に追われているため、ご遺体の扱い方や葬儀というところまで正直、手が回っていないと思うんです。
ですから、私達が自主的に動きながらベストな方法をみつけていくしかないと思っています。
やはり新型コロナウイルスで亡くなると、ご家族に最期のお顔を見てもらうのは無理なのでしょうか。
そうですね、我々はお棺に納めされたところから担当し、お棺は開けて差しあげられないので、残念ながらお顔をお見せすることができません。
ただ、県内の医療機関の方で検討してくれているようです。
お亡くなりになって私どもがお預かりに伺うまでの間に、ご遺族を病院にお呼びし、透明の納体袋で包まれた状態で対面していただけたらというアイディアが出ています。
ただ、ご遺族が濃厚接触者で自宅待機になっている場合はそれもできないですし、歯がゆいですね。
火葬にはご遺族が同行するということも難しいですか?
和歌山市の火葬場において、今のところ特別な規制はないので、ご遺族の方が希望すれば同行していただけるものと思いますが、やはり、ご遺族が濃厚接触者となっていると、それもお断りせざるを得ません。
少しでもご遺族のご希望には添いたいと思っていますが、今は感染防止を一番優先しなければなりませんし、それぞれ事情も異なるので個別ごとに検討しながら、ということになると思います。
お顔も見れず火葬にも立ち会えず、というお別れになると、ご遺族にどんな影響があると思いますか?
グリーフ(死別による悲嘆の苦しみ)を引きずり、心身が回復するまでに非常に長い時間がかかったり、前に向かってなかなか進めなくなる方も出てくるのではないかと危惧しています。
私達は「お葬式という思い出が最高の思い出になるように」というミッションを掲げています。
葬儀には、亡くなったことを受け入れ、悲しみとの折り合いをつけていく役割があります。
葬儀が持つ価値や力を信じていますので、それをきちんとお伝えし続けていきたいと思っています。
直後にきちんとした儀式ができなかった場合でも、後日落ち着いてから、お別れの会を行うなど改めて皆さんで分かち合える機会を作りませんか、とご提案をしています。
葬儀に対して、ご遺族の意識は変化しているでしょうか? アフターコロナになっても、葬儀の小規模化が止まらないのではという意見もあるようです。
むしろ葬儀の価値を見出している人が増えているように私は感じています。
ご葬儀を終えたご遺族にアンケートを行っていますが「この状況下でどうなるか心配な部分もあったけれど、感染対策もしっかりしてくれていたので安心した。無事にお通夜、葬儀と執り行えて本当に良かった」という感謝のお言葉をいただくことが多くなりました。
志村けんさんがお亡くなりになった時の報道をご覧になって、大切な人をちゃんと見送れるということは決して当たり前なことではないのだと実感されている方が多いのではないでしょうか。
葬儀が出来ること自体が価値提供になっているようです。
県内はそれほど感染が拡大していない状態なので、そういう言葉が出てくるのかもしれませんが、我々としても、この状況下だからこそ葬儀の意味や価値をお伝えしていくことは大事だと思っています。
やり方は変わったとしても葬儀の価値は示せるはずですから、今後の状況に合わせて工夫していく必要がありますね。
たとえば、ご遠方の方には、ZOOMやYouTubeを使った形でご参加いただき、画面越しになりますが、喪主様にお声をかけていただくお時間を作ったりだとか、インターネットを通じて心を繋いであげることはできると思います。
コロナ禍だからこそ、進化したことや得られた学びなどはありますか?
スタッフ各自が、感染防止対策の意識を強く持つようになったことは良かったですね。
ご遺体に触れる仕事ですから、感染症というものを甘く見ず、いつでもマスクとナイロン手袋をつけてお迎えにいこうよ、という意識付けの教育にはなったかなと思っています。
今回をきっかけにこの感染防止対策が徹底されて、コロナが終息されたあとも基本の運用になっていくようにしたいと思います。
それと、オンライン化が進みました。
この状況になってはじめて、オンライン会議システム(ZOOM等)も初めて使ったけれど、県外との方との打ち合わせができたり、社内の働き方改革にも役に立つなといろいろ発見がありますね。
毎月東京にも出張していましたが、それがなくなっても、コミュニケーションは十分に撮れていますし、むしろ移動時間が少なくなったことで時間は有効に使えていると思います。
そのように良い変化もありますから、今の状況に対応しながら、ご遺族の皆様のお力になっていきたいと前向きな気持ちで頑張っています。
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●お話を伺った人
株式会社辻本葬祭 代表取締役 辻本和也氏
創業75年の歴史を有す葬儀会社の代表を務める。現在、和歌山県内に家族葬専門の「ラポール」という4つのホールを運営しながら、地元の葬送を守り続けている。
一般社団法人グリーフサポート研究所認定グリーフサポートバディの資格を持つ。
ホームページ:家族葬のラポール http://www.rapport24.jp/
※本記事は2020年4月30日の情報に基づいて記載しています。
【 記事を書いた人 】穴澤由紀
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