コロナ禍、緩和ケア病棟を見守るナースのお仕事

葬祭サービス

今回のグリーフサポートラボは、緩和ケア病棟に看護師として勤務するグリーフサポートバディの大森ゆみさんのインタビューをお届けします。

大森さんは、看護師になって2年目に「私がやりたいのは緩和ケアだ」と決意。
オーストラリアでのホスピス研修、高齢者施設でのボランティアを経験し、帰国後、約15年に渡って緩和ケアの分野でキャリアを積まれてきました。

大森さんは、現在、新型コロナウイルス感染症の問題と向き合いながら、患者さんやご家族に最善を尽くされています。



___緩和ケア病棟というのは、終末期を過ごされる患者さんのための施設だと思いますが、一般の入院病棟とはどんな点が異なるのでしょうか?

一般の病棟と比べると、ご自宅に近い感覚で過ごしていただけるような施設になっています。
私のいる病棟では、すべて個室になっていまして、病棟にはご家族も使えるようにキッチンも備え付けられていますし、お庭が見渡せたりと、ゆったりとした作りになっていますね。
基本的には余命6か月以内と想定されて、抗がん剤治療などを行わず、苦痛を緩和することに重きを置かれたいという方がお入りになっています。



___どの医療機関も感染防止対策を徹底されていると思いますが、緩和ケア病棟もご家族の出入りは制限されているのでしょうか?

当院では、原則面会禁止ですね。
今は患者さんがひとりで静かに過ごされるお時間が多くなっています。

オンライン面会を導入し、ご家族と画面越しに対面いただけるようにしていますが、予約制でもありますし、十分に対話をしていただけるかというと難しい部分もあります。

本来、緩和ケア病棟は、ご家族との最後の時間を十分にお過ごしいただくというところも大切にしていますから、通常時には、面会も積極的に受け入れています。
それが叶わないのはとても残念ですね。

しかし、今は感染症対策を優先して、患者さんや自分たちを守るということを優先すべきだと考えています。

末期のがん患者さんが多い病棟なので、もし、もし新型コロナウイルスが発生したらあっという間に重症化を招いてしまう可能性があります。

患者さんやご家族が感染したら、最期のお看取りに会っていただくことが出来なくなるのでそれだけは防がないと、と思っています。



___お看取りの時は面会いただけるのですか?

私のいる病棟では、余命があと1週間くらいとなったら、お一人の方の付き添いが可能、という形にしています。
通常時は、人数制限もありませんから、お子さん、お孫さん達も含め、大勢の家族に囲まれた中でお亡くなりになる、という方もいらっしゃいます。
ご家族の皆さんがお集まりになれないということが残念ですよね。


___コロナ禍で実際のお仕事ではご負担は増えていますか?

仕事は増える一方ですね。正直、もう限界に近いなという感じです。
感染防止対策をはじめ、各作業も総じて増えていますし、患者さんやご家族のご様子も不安定になることが多いので、いつも以上に気を遣っています。

面会が出来なくなっている寂しさが、患者さんを不安定にさせていると感じます。
痛みが強くなったり、不眠を訴える方も多くいらっしゃいますし。
こういう状況になって、ご家族の存在の大きさを改めて感じますね。
 
一方、ご家族側も患者さんに直接会えない日が続き、ご不安も募りやすいですから、ご家族への説明の時間もこれまで以上に時間をかけて行うようにしています。

こちらから定期的にお電話をさしあげたり、洗濯物を持ってきてくださる時にコミュニケーションをするようにして、患者さんのご様子をお伝えするようにしています。

ご家族側がご心労や予期悲嘆を強く抱えていらっしゃることも多いので、ご家族への支援も大切な仕事のひとつです。

対面でお話しできれば表情やしぐさからも察することが出来るのですが、今は電話でのやりとりが増えているので、ご家族の状態を把握することに難しさを覚えることもあります。


__緩和ケア病棟で働く看護師として心がけていることはどんなことですか?

患者さんやご家族のニーズに的確に答えていくことです。
ホスピスや緩和ケア病棟で亡くなった患者家族に対する大規模調査があったのですが、私達、看護師に何を望んでいるのか、という設問に対して「話を聴いてほしい」というニーズは、意外と少ないんですよね。全体の40%程度にしかすぎませんでした。
   
上位に来ていたのは、「患者が快適に過ごすための手伝いをしてほしい」、「心身の辛さや痛みを取り除いて欲しい」ということでした。
看護師の本来業務のところですから、当たり前といえば当たり前かもしれません。


でも、本来の立ち位置というのをしっかりと心に刻みながら仕事をするというのは大切なことだと思っています。
いくら話を聴いてくれても、辛さをケアしてくれなかった、と言われてしまっては本末転倒なので気を付けています。


___大森さんはエンゼルケアについてもセミナー講師をなさっているほど深く習得されていらっしゃいますよね。大森さんはどのような心持ちで、エンゼルケアをなさっているのですか?(※エンゼルケア:死化粧、死後処置のこと。エンゼルメイクとも言われる。死者を、人生の最期にふさわしい姿に整えるため、化粧を施したり、闘病の跡や傷口をカバーしたりすること。死者の尊厳を守る処置であるとともに、残された家族のグリーフワークの1つとして重視されつつある。~看護roo!用語辞典より~)

エンゼルケアは、お看取りした直後に行われます。
それは、ご家族がご遺族となる瞬間でもありますから、グリーフサポートの意味合いが大きいです。

お顔やお身体を整えて、お着換えをすることで患者さんの印象が変わるんですね。

そのお姿を見て「これが本当のお母さんなんですよ」とおっしゃっていただけたり、ずっと険しい顔をされていた娘さんが、お顔の色を整えただけで「お父さん、戻ってきた!」とおっしゃっていただけたりすると、あぁ、お手伝い出来て良かったと思います。

反対に、私達、看護師は、患者さんのパジャマ姿しか知らないので、お元気だった頃のご様子を垣間見れたり、ご家族からお話を伺うことで、最後の最後で、新たな患者さんの一面を知ることが出来るんです。


この時間によって最期までお世話ができたという感謝が湧き上がってきますし、私達のグリーフケアにもなっています。



___亡くなられた後は、葬儀社さんがご遺体の搬送にいらっしゃることが多いと思うのですが、病院と葬儀社の連携で問題点などを感じることはありますか

患者さんが病院で亡くなられた際、ご家族が手配された葬儀社さんがお迎えにいらっしゃってご遺体をお受け渡しする、という流れが普通です。


そのお受け渡しの時が、葬儀社さんとの唯一の接点だと言ってよいと思います。

その際に、両者で引継ぎ的なことがなされているかというと、一般的には、しっかりとしたやりとりがなされないんですね。
 
でも、私はご遺体の適切な管理やグリーフサポートの観点から、病院と葬儀社の連携は強化した方がいいと考えています。

私の所属している緩和ケア病棟では、お迎えに来られた葬儀社さんと必ず申し送りをしています。

ご遺体の扱いについて注意していただきたいことを書面にして、ご説明をさせていただくんです。

例えば、点滴がどこに入っていたか、浮腫がどこに出ているかなどをお知らせしておくことで、血液や体液の漏れに気付きやすくなりますし、良い状態を保っていただくのに役立てていただけますよね。

またご家族の疲労が強いことなど、気になることもお伝えできれば、ご家族のストレスが和らぐことに繋がるかもしれません。



___引継書のようなものを用意されているんですね。それは珍しいことなのでは?

書面を使って引継をしているところは少ないと思います。

私たちの病院ももともとは口頭だけの引継でしたが、私が提案して始めました。
お迎えの人と、実際の葬儀の担当者は違うこともありますし、口頭だけの引継はトラブルのもとだと思っています。

この運用をはじめてすでに7年ほど経過していますが、2年目くらいの時に、地域の葬儀社さんにアンケートを取ってみたところ、おおむね高評価でしたし、お役に立っていることがわかりました。

___お迎えにいらっしゃる葬儀社さんの対応で不安になることってありますか?

お互い様だとは思いますが、残念だなと思う葬儀社さんも正直いらっしゃいます。

たとえば、ご家族に対して、早口でまくしたてるように説明を始める人とか、上から押し付けるような態度の人などもいらっしゃいます。

大切な人が亡くなったばかりで、ただでさえ、心の余裕がない状態なのに、そんな話し方をしたら、ご家族は理解できないだろうし、悲しみが深まってしまうんじゃないかと心配になります。

また、ご遺体に対して雑な扱いをされるのも困りますね。移動の際、ストレッチャーからご遺体を落としそうになった人がいて、全力で私が止めたこともありました。

ご遺体を丁寧に扱うことで、故人の尊厳を保ち、ご家族のお気持ちが少し安らぐことに繋がると思っています。そういうところは、同じ目線で、ご遺族と接していきたいです。


___万が一、新型コロナウイルスでお亡くなりになった患者さんが出た場合に備えて、大森さんはエンゼルケアのマニュアルを作られ、それが緩和ケアの専門誌にも掲載されたそうですね。

はい、新型コロナウイルスに感染した患者さんののご遺体のケアをする機会が出てきた時に、慌てることがないように病棟で利用するためのマニュアルを作成しました。

感染を拡大させることのないようにするために、標準予防策に加えてどんな配慮が必要か、ひとりひとりが把握しておく必要があります。

ジーエスアイの橋爪先生にも監修をお願いしたので、自信をもってまとめることができました。

その話が雑誌の編集者の耳に届き、他の医療従事者の人達にも参考になるはずだからと言われ、雑誌でご紹介していただくことになりました。

さらに、ジーエスアイの「新型コロナウイルス感染症ご遺体の搬送・葬儀・火葬の実施マニュアル」にも、エンゼルケアの部分をお手伝いさせていただきました。


ジーエスアイのサイトからどなたでもダウンロードできるようになっていますので、必要な方は、ぜひご覧ください。

https://covid19manual.griefsupport.co.jp/

※本マニュアルは、日本医師会 総合政策研究機構が企画した『ご遺体の搬送・葬儀・火葬の実施マニュアル支援プロジェクト』への協力として、株式会社ジーエスアイが中心となって作成したものです。


___最後に、もうひとつお聞かせください。

アフターコロナの緩和ケア病棟をどんな風にイメージされていますか?

100%今まで通りにはいかないでしょうが、普通のことを当たり前に提供できるようにしたいです。
ご家族が集える、最後の時間を穏やかに過ごせる。
緩和ケアならではの過ごし方をしていただけるように、今までの普通を取り戻したいですね。


(聞き手、文:グリーフサポートバディ 穴澤由紀)

◆関連記事◆
他のグリーフサポートバディの皆さんへのインタビュー記事がもございます。
ぜひお読みください。

▶見えないニーズを掘り起こしながら訪問看護のニューノーマルを作っていく
(株式会社ホスピタリティ・ワン 代表取締役社長 高丸慶)
https://lab.griefsupport.co.jp/post-1113/

▶看護師として遺族を支えたい。私が辿り着いたグリーフサポート。
(看護師 神藤ゆうこ氏)
https://lab.griefsupport.co.jp/post-587/

▶エンディングソーシャルワーカーとして最期の準備(逝きる)を支えたい。(株式会社ファイング(エンディングプランナー)、社会福祉士 川上恵美子氏)
https://lab.griefsupport.co.jp/post-367/

▶困難な状況の中で、不安な心をやる気に変えるリーダーシップ論
(株式会社吉澤企画 代表取締役 吉澤隆氏)
https://lab.griefsupport.co.jp/post-975/

▶コロナ禍の葬送最前線 「葬儀は心の回復を進めてくれるもの。今だからこそ価値を伝えたい」(株式会社辻本葬祭 代表取締役 辻本和也氏)
https://lab.griefsupport.co.jp/post-947/

▶withコロナで加速する葬儀の簡素化は食い止められるのか
(小金井祭典株式会社 代表取締役 是枝嗣人氏)
https://lab.griefsupport.co.jp/post-1043/

▶ご遺族の気持ちを知ることが良い仕事に繋がる
(株式会社ハウスボートクラブ 代表取締役 村田ますみ氏)
https://lab.griefsupport.co.jp/post-798/

▶海洋散骨で故人とご遺族を繋ぐ
(株式会社ハウスボートクラブ 代表取締役 村田ますみ氏)
https://lab.griefsupport.co.jp/post-786/

▶徹底した「聴く力」で想いを引き出す~葬儀司会者という仕事~
(有限会社エムアール・コーポレーション 森田理恵子氏)
https://lab.griefsupport.co.jp/post-468/




タイトルとURLをコピーしました