僕の役割を再認識させた、新型コロナウィルスによるご遺体の感染症対策マニュアル作成

Ken's Room

【Ken’s Room】感染症対策マニュアルを作成した理由

エンバーミングとグリーフサポートの学びを始めて26年、
実践を始めてからも20年が経ち、さらに儀式について研究を始めて10年の僕が、【新型コロナウイルス感染症、ご遺体の搬送・葬儀・火葬の実施マニュアル】を作成した理由、それは「大切な人が亡くなったときに、最後に直にお別れをする場をなくしたくないから」です。

少し時計を今年の初めに戻したいと思います。

2020年1月23日、「新型コロナウイルス感染症の感染の拡大を防ぐために 」
という理由で、1,100万人の人口の中国湖北省武漢市の都市封鎖を決定し、
武漢市とつながる道路が封鎖され、鉄道の運行が休止されるニュース映像が流れました。

日本のメディアは、「1月24日から始まる春節で中国からたくさんのインバウンドを受け入れたら、日本も武漢の様になるのではないかとか?」という警鐘を鳴らすだけで、日本国内においては、他国で起こった出来事ではなく、自国での問題として捉えるべきなのかと、この段階では社会が危機感を持ったと言えるような段階ではなかったと思います。

そして、1月29日武漢からチャーター機で、邦人を帰国させ、経過観察をするためにホテルに宿泊をしてもらうことになったというニュースが出た頃からは、もしかすると、今後世界にとんでもないことが、広まってしまうのではないかと、社会の捉え方が変わり始めていました。

それまで、特定の地域からの渡航者の入国を規制することをしてこなかった日本政府も、1月31日に開かれた新型コロナウイルス感染症対策本部の第3回会合で、水際対策強化のため、武漢市がある中国湖北省に滞在歴のある外国人を2月1日から入国拒否すると発表したのです。

それから、2月4日ダイアモンドプリンセス号の中で、日本国内において感染者が発生し、対岸の火事ではないことが明確になり、そこから感染者数増加のニュースや、世界のどの国でも感染者数ともに死者数が増えていくニュースが、毎日の様に報道されるようになった頃。

インターネット上には、根拠のない情報が蔓延し、フェイクニュースが溢れかえっていて、どうすべきなのか検討もつかない人たちが、必需品のマスクや消毒薬だけでなく、トイレットペーパーや食品に至るまで買い占めるようになりました。

早めにマスクなどを備蓄する人が出てきて、店頭からマスクが忽然と消え、毎朝入荷するかどうかわからないにも関わらず、ドラッグストアの前に並んでいる人が現れる様になったと記憶をしています。

 

 

WHOも、当時はまだ健康であれば, コロナウイルス感染の疑いのある人の世話をする場合のみマスクを着用すればよいと
言われていました.。

 

新型コロナウイルス感染症騒動前のエピソード

今回のマニュアル作成が、本当に不思議で奇妙な再会から始まっていたことを、新型コロナウイルス感染症騒動前のエピソードを含めて紹介します。

1月12日(日)の鶴見大学で開催された「大規模災害における多角的視点を養う」をテーマにしたシンポジウムについて、知合いから「話す内容は検死です。首都直下地震や南海トラフ巨大地震津波の時には何万人という方が亡くなる可能性がありますが、夏場に発生したらそれは地獄だと思います。いまから準備できることがたくさんあると思いますので、それをお伝えしたいと思っています。ご興味がある方はご参加頂けると幸いです。

内容的にはシビアですが、本当の話をしなければならないと思っています」と案内を受け、これは行かないといけない!と感じスジュールを調整して参加しました。

 

講演会では、「今までの災害の時のことが、全然教訓になっていない」ことや、危機管理において、今一度大きな震災が、特に大都市圏に起こった時のことを聞いていると、「東日本大震災の時には、自分たちは何も貢献できなかったな…」と、色々なことを思い出しながら聴講していました。

そして、その講演会終了後に再会したのが、秋富慎司先生(日本医師会 総合政策研究機構 客員研究員)なのです。

秋冨さんからは、色んな話をする中で「橋爪さん、あなたは、もっと色々な表舞台に出ていくべき人だ。あなたにはカリスマ性があるのだから、色々な表舞台に出る様につなげていきますからね」と言ってくれました。

その時にはなんだか意味がわかりませんでしたが、この一言というか、この刺激が、この後の行動へとつながることになりました。

 

次に、秋冨さんに触れたのは、2月18日の衝撃的なSNS投稿でした。そしてそれからほぼ毎日の様に投稿が流れてくることに・・・

「んー、、、最初に私を大袈裟だと馬鹿にした人に伝えたい

これでよいのですか? と…

東日本大震災から、何も変わってない…( ; ; )

 早く感染経路を国家レベルの事業として把握しつつ、対応を前倒しないと、病院職員、行政職員、国会議員、民間企業に至るまで感染したら、もう経済は大変なことに…日本はどうなってしまうのだろう」

それは、和歌山で新たに3名の新規感染者が出て、その中には、クルーズ船に派遣された看護師まで含まれているというニュースがでた直後に彼が投稿したものでした。

そして、翌日(2月19日)には、「言い争いに巻き込まれたくなかったけれど、今となっては後悔しています。今からどこまでできるかわかりませんが、とりあえず頑張ります。日本が一つになって欲しい」

ここがポイントで・・・本当に勝手ではありますが、この内容は僕に向けて発信したメッセージだと受け取ってしまい、早速、僕にできることがありませんか?と連絡を取ってしまったのです。

というのも、ちょうどその頃、まずは北海道の葬儀社から問い合わせが始まり、その後、続々とセミナーや講演会で僕の話を聞いたことのある方々や、取引先の方々も含めて、新型コロナウイルスに対して現場対応をどのようにすれば良いのかという問い合わせが日本各地から入ってきていました。

しかも、その助けを求める声は、「初めてのことでどうして良いかわからない…」というものでした。僕に連絡をしてきている人は、大枠の指針は厚生労働省から出ていたものの、具体的にどうすればいいのか全くわからず、その数がだんだんと増えてきていることがわかってきていたので、国内外の情報を集め、ガイドラインやマニュアルを作成して、具体的にどうすればいいかを現場にいる人に届けてあげたいと考えていたところだったのです。

医療の最前線で必死に頑張っている人を守ろうと、日本医師会の中で頑張っている友人を見ていて、他の業種も一緒じゃないか、もし葬儀に従事する人に感染が拡大したら一体どうなるんだろう…と次から次へと思いが溢れてきました。

「誰が、ご遺体を搬送するのか?」

「誰が大切な人を亡くし、不安になっている人を支え、葬儀の準備をするのか?」

「葬儀や火葬の仕事に従事している人たちが、安心して仕事ができなければどうなるのだろうか?」

「医療従事者の家族をバイ菌扱いした様に、葬儀や火葬の仕事をしている人の家族にも同じような扱いを受ける事態が広がるのではないだろうか?」

医療の世界では、どうしたら感染の拡大を防げるのかについてのマニュアルやガイドラインの整備が進みつつあったのですが、ご遺体の搬送、葬儀、火葬の分野では、必要なガイドラインの整備が進んでいる様には思えなかったので、思うままをメールに書いて送りました。

「僕の方で、感染予防とご遺族のグリーフケアにまで網羅をしたガイドラインをまとめていますので、一度目を通してアドバイスをもらうことはできますか?」と連絡をしたのです。

そうすると、すぐに返事がきて、「もちろんです。日本医師会の横倉会長にもお伝えしました。」というものでした。そして、「誹謗中傷などは、僕が引き受けますから」とまで言ってくださったので、僕は関わることにしました。

これまでの学びと思いが形になったその先に

その取り組みは、今回、日本医師会総合政策研究機構 対新型コロナウイルス特別医療支援タスクフォースのプロジェクトの一環としてマニュアルを作成することになりました。

そして、最終的には7月29日に発表された厚生労働省の新型コロナウイルスに関するQ&A(遺体などを取り扱う方へ)における「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方、及びその疑いがある方 の 処置、 搬送、 葬儀、火葬等に関するガイドライン」作成の基礎として採用されました。

まずは、本当に基礎的なものから作り始め、そして、関連する仕事にも範囲を広げていくにつれて、自分がなぜこの取り組みを始めようと思ったかについて明確になってきたという…

まぁここまで長々と書きましたが、こうした出来事があったのです。

大切な人が亡くなり、その現実に向き合うのには、ご遺体と一緒に過ごす時間や場がとても重要です。今までなら最後に顔を見て、「ありがとう」とか「大好き」とか、「ごめんね」とか言葉をかける場が当たり前のように存在していて、その重要性についてほとんどの人が気にもとめていなかったのだと思います。

改めてそのことを実感したからこそ、コロナ禍において、人が大切な存在を失ったときに、その後生きていくために必要な“場”と“コト”、いわゆる儀式を執り行う為に、何が必要なのかを発信していくのが、僕がやらないといけない役割の一つだと気づかされたのです。

オマケということではないですが、今回こうしてマニュアル並びにガイドライン作りに取り組んでいて、ふと・・会社を創業した時に感じていた「思い」、具体的には自分が仕事を通じて社会を変えたいという「思い」を、ハッキリと思い出しました。ここは初心に戻って、自分ができることを使ってできる限りの貢献をしていきたいと思います。

今回のマニュアル作成でご縁をいただいた各専門家の皆さんともご一緒に、更に研究を続けていきますので、また皆さんにも継続的にご報告していきたいと思います。

(記事を書いた人:株式会社ジーエスアイ 代表取締役 橋爪謙一郎)

ご遺体に関する新型コロナウイルス感染症対策最新版マニュアルは、下記よりダウンロードできます。

 

◆関連記事◆こちらも併せてお読みください。

▶新型コロナウイルス感染拡大の状況下で葬儀をどうするべきか(その1)
http://lab.griefsupport.co.jp/post-894/

▶新型コロナウイルス感染拡大の状況下で葬儀をどうするべきか(その2)
http://lab.griefsupport.co.jp/post-921/

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