withコロナで加速する葬儀の簡素化は食い止められるのか

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コロナ禍葬祭最前線インタビュー第3弾は、東京で葬儀会社を営んでいる小金井祭典株式会社 代表取締役 是枝嗣人氏へお話を伺いました。

※本記事は、緊急事態宣言中に行った取材に基づいて編集しております。
 
 

小金井祭典株式会社
代表取締役 是枝嗣人氏

___葬儀の状況はどうなっていますか?

コロナの影響を受けて、葬儀の小規模化は続いていますね。葬儀の件数自体はそれほど変わらないですが、1日葬が火葬式になったり、一般葬が家族葬になったりと全体的にご参列者数が少なくなり、簡素化されて行われることが多くなっています。
 


4月初旬に松山で葬儀時にクラスタ―感染が発生したという報道が出て、あれから皆さんの意識がガラッと変わりましたね。

家族30人、お弁当20個と予定していた方から「家族5人でやります」と変更のご連絡が入ったり、「葬儀場に人を呼んではいけないわよね」と相談されたり、一気に自粛モードに傾きました。

お寺や火葬場など受け入れ側も、会食や大人数での利用について自粛を求めるようになりました。

現在は若干風向きが変わってきましたが、それでも、人をなるべく呼ばない葬儀を考えている方が多いです。

もともと葬儀は最低限でいいんだというお考えの方にとっては、ある意味、コロナが後押しになっていて、大々的にやる必要ないよね、と迷いなく選択できるのかもしれません。

それぞれのお考えを尊重しますが、葬儀を行わないとか、お別れをごく身内だけで行うと、どんな影響があるのかというところも一度考えてみてほしいなとは思います。

 



___葬儀をしなかったり、ごく身内だけでお別れするとどんな影響があるのでしょうか。

例えば、「ごく身内だけで葬儀を済ませるし、通達は出さなくていいわよね」とご相談されることがあります。

葬儀に呼ばないのなら、周囲に亡くなったことを知らせなくても良いだろうということです。
すぐに通達を出さないとなると、その後にお知らせするタイミングがつかめず、多くの場合年末の喪中ハガキを出すまで延びると思うんです。

通達を出さなければ、周囲の人は亡くなったことを知らないままなので、当然、ご遺族への支援が行き届かなくなります。

しかも、日常生活に戻られると、周囲の人から「お母さん、元気?」とか、向こうにしたら悪気はないのだけど、胸に突き刺さるような言葉が降ってくることもあるかもしれません。

通達をすぐに出さなかったばかりに、心の痛みが大きくなってしまうかもしれないんです。

通達しないことでこういうことが起こりうるということを、イメージできているご遺族はほとんどいらっしゃいません。

悲しみを自分たちだけで留めるのではなくて、人にちゃんと伝えた方がいいし、ちゃんと支えてもらった方がいい、さらに言えば、事前にそういう人間関係を作っておくことが喪失に備えることになると思っています。



___なるほど。グリーフサポート的に考えると、通達を出さないことのデメリットは大きそうですね。

通達を出すことは、実利面でもメリットがあるんですよ。

例えば、勤務先へ通達すれば、一般的に供花をいただけます。

勤務先や組合の慶弔費から計上されるものですが、通達をしなければこれも出なくなりますよね。

しかし、弊社では、いただいた供花を、お花盆 のお花として活用し、お棺の中にお納めすることもできるようにしていますので、実質的にご葬儀に関わる費用を数万円減らせることになるんですよね。

外部からいただける供花を活用して、最期のお姿をたくさんのお花で綺麗に飾ってあげられたという満足感を感じられたとしたら、それもひとつ、通達することによる恩恵です。

そんな風に私は考えているので、葬儀自体を縮小しても通達はちゃんとされた方がいいと思うんです。

供花を増やしていけば、今苦しんでいるお花屋さんにも少し貢献できますし。




___葬儀にはあまり人を呼ばない方がいいのでは、というご相談には具体的にどのように対応されていますか?

葬儀は、周囲の人から支えてもらえるきっかけになると思っています。
その価値を考えると、できれば親しい方にはお集まりいただいて、一緒にお別れをしていただきたいと言いたいですが、一方で、手放しで推奨できない状況が続いています。

消毒や3密を作らない工夫など、できうる感染対策はしっかりやっていくとしても、終息するまでは、リスクはどうしても付きまとうでしょう。

自分が行った葬儀で、万が一、そこでクラスタ―感染が起きてしまった、ということがあったら、ご遺族がとやかく言われて、グリーフが大きくなってしまうかもしれません。

葬儀はご縁の深い方々が集まる場所だからこそ、そこで何かあると、支えてもらうはずが反対に人間関係が崩れてしまう可能性もあるわけです。

我々は、両面の判断材料を提示しながら、ご遺族にとって一番良い選択をしていただけるように寄り添う役割があると考えています。

___葬送ビジネスとして今、危惧されていることはどんなところですか?

葬儀の小規模化がどんどん進めば、単価も下がりますので、経営的には厳しくなります。

もともと葬儀屋というのは月の売上がアップダウンしやすいので、売上が読めないことには慣れてはいるんですけどね。

今回、葬儀会社だけでなく、葬送にまつわる業種が軒並み辛い状況になっています。
料理屋さん、ギフト屋さん、お花屋さん、人材派遣、それぞれが打撃を受けています。

たとえば、人材の流出も起きるでしょう。


このまま会食はしないとか、火葬式だけでいいという風潮が続けば、配膳のポジションはいらなくなります。


仕事がなくなれば、息長くやってこられたベテランの感じのいいスタッフさんが辞めてしまうなど、人材の流出も起きてきます。

いい人が抜けちゃうと当然、サービスの品質は落ちます。

さまざまなポジションで質の低下が起きてくると、葬儀全体が変わってしまいます。

もともと、葬儀の小規模化が進む中で、中国経済の成長等によって仏具の単価は上がってきていますから、弊社でも利益率の低下は避けられなくなっていました。

それでもサービスのクオリティは下げたくないので、企業努力で品質を維持してきました。

(イメージ写真)


お香もそのひとつです。

お香は葬儀社が準備するのですが、弊社が担当する葬儀は刻みの白檀ですべてやるんです。高価なのでお寺さんにも驚かれますが、そこはこだわりたいんですよね。

煙が多いタイプのお香で、なんともいえない甘い匂いが立ち込めるんです。

今は、煙の少ないタイプのお香が流行っていると思うんですが、あれは化学物質を使って少なくしているのでアレルギー反応が出る方もいらっしゃいます。
もともとお香は薬ですし、本来のものを使いながら、おみおくりの本質を伝えていきたいんです。

ずっとこだわり続けているお香は、煙にコシがあって、部屋の中にすーっと漂っていくのがよく見えるんです。窓から光が差し込んできているところに、まるで紫雲が仏様の方に向かっていくようだと思われる方もいます。

こういう細かい演出というのは、ほとんどのお客様は気付かないかもしれませんが、このお香を使うからこそ作れる空間なので、なんとか死守したいんです。

でも、採算が取れなくなっていけば、このこだわりも捨てざるを得なくなる。これから、そういう局面になるかもしれないと危惧しています。


___今後、収束に向かっていく中で、葬儀はコロナ前の状態に戻っていくのか、それとも、今回のコロナ騒動によって恒常的に葬儀の形が変わる部分があるのか、どちらだと思われますか?

それは正直、分からないですね。
東京では、火葬のみのお見送りが増えていて、15年前は3割だったのが、現在は約6割まで占めるようになってきました。

もともと葬儀の小規模化は進んでいたわけで、それがコロナによって加速し、いつかは火葬のみでいいやという人が8割に届いてしまうかもしれない。
 
しかし、仮に2割の人しか葬儀をやらない時代となっても選ばれる会社を作ってきた自信はありますので、希望する人がいる限りちゃんとした葬儀をしてあげたいと思っています。


私は葬儀屋なので、葬儀を通したグリーフサポートをしていきたいですね。

葬儀が、遺された人の心の整理をつけていく機会の一つであってほしいです。

ただ、新しい様式を取り入れていくことは必要でしょう。
ニーズは変わっていっても、故人を弔う気持ちはなくならないでしょうから、そこに応え続けたいですよね。



___感染防止との両立の中でこれから新しい様式を取り入れるとしたらどんなアイディアがありますか?

この間、ジーエスアイの橋爪先生の講座で、アメリカのコロナ禍でのお葬式の写真が紹介されていましたが、列席できない方のお写真が椅子に貼られていて、あたかもそこにいらっしゃるような演出でした。

ああいうのはいいなと思いますね。さっそくお客様へのご提案に含めようと思っています。
 
 

葬儀に参列できない人々の顔写真やバルーンで想いを伝えるアメリカでの葬儀の様子。 ジーエスアイ主催「 新型コロナウイルス感染症対策セミナー 」で紹介された。


もうひとつ、葬儀や法事でオンラインを活用していくことですよね。

お坊さんに来ていただくことが難しければ、本堂の前で故人様のために読経していただき、その様子をオンラインでつなぐだけでも、ありがたみは変わらない気がします。

また、弊社の強みは、お客様とのコミュニケーションを綿密にとっていくところだと思っています。
 
事前相談や電話応対、ご安置、打ち合わせ、施行といったプロセスの中で、葬儀にまつわる意味をひとつひとつ説明したり、お話をしっかり伺いながら、信頼関係を作ってきました。

「この人に任せて大丈夫」と思ってもらうことが大事ですし、葬儀の価値を理解していただけると、満足度も高まります。

そうやって、お客様との接点を誠実に積み上げることで、葬儀後もお付き合いが続いているケースが多いのです。

感染対策によりお客様との接点が少なくなると、うちの持ち味が出しづらくなります。

そのあたりも悩みどころで、今後どうやってカバーしていくのか、新たな視点を持って取り組んでいかなくてはと思っています。


是枝氏はラジオパーソナリティの顔も持つ。
是枝つぐとのおみおくり百科
栃木放送と山梨放送で 週1回オンエア中。

(聞き手、文:グリーフサポートバディ 穴澤由紀)


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