6歳の息子の死をきっかけにグリーフサポートの道へ

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グリーフサポートバディとして活動する方々は、様々な入り口からグリーフサポートの道へと至っています。グリーフサポートに携わっている人たちはどんな「きっかけ」や「思い」で今の仕事に就いたのでしょうか? 様々な職種のグリーフサポートバディを紹介していきます。

今回は活動を続けて9年目となるセラピストの穴澤由紀さんの寄稿です。

●グリーフの苦しみを学びに変えて、ライフワークに

私は12年前に当時6歳だった息子を亡くしました。
我が子を失うという苦しみは、筆舌に尽くしがたいもので、当時の私は精神的に危機的な状態でした。
看護のため仕事も辞めていましたし、人間関係も変わり、生活が一変してしまいました。

しばらくは一人で家にこもっていましたが、少し自分を客観的に見られるようになった頃、「悲しみに溺れるのではなく、これから新たな生き方を見出さなければ」と自分を鼓舞するように、ジーエスアイのグリーフサポートセミナーに参加することを決めたのです。

自分自身が癒しを必要としていたにも関わらず、カウンセリングではなくセミナーを選択するのは一般的ではないのかもしれませんが、大切な人を失うことでどんな影響があるのか、理論的に学んでみたいと思いました。

人間は社会的な生き物ですから、誰の人生にも大切な人との別れはつきものです。多くの人が死別の
悲しみを経験しているのなら、ほかの人はどのように対峙していったのか、また、悲嘆に関する心理学等の研究があるなら科学的な情報を知りたい、そんな思いでセミナーを選択したのです。


実際、セミナーに参加してみると、私のように喪失体験がきっかけとなって、受講される方も多く
いらっしゃったので、場違いで居心地が悪いということは一切ありませんでした。

その後、継続的にグリーフについて学ばせていただき、グリーフサポートバディの資格を取得しました。現在は、催眠療法を主とした心理セラピストとして活動をして、グリーフの状態にある方に向けての心理療法も担当させていただいています。
 
グリーフの学びを通して得られた知識とスキルによって、私自身が自分を取り戻していけた部分がありますし、ライフワークを得ることにもつながりました。

●もしグリーフを学んでいなかったら、自分に起こったかもしれない危機

では、もし、あの時、グリーフを学んでいなかったら、なにがどう違っていたでしょうか。今回は、その視点でいくつか思いつくままに取り上げてみたいと思います。
 
1.心と体に起きている異変におびえ続けていたかもしれない。

大切な人を亡くした方の中には、自分自身の状態に違和感を覚え、「自分はおかしくなったのではないか?」と不安を感じる方が多いのです。たとえば、どこにいても突然感情がこみあげて涙が止まらなくなる、本を読んでも内容が頭に入ってこない、過眠傾向になって昼間も眠くて仕方がなく仕事に差し支える等、そんな風に一見バラバラのお悩みが生じたら、自分に何が起きているのかと心配になりませんか?

しかし、これらはすべてグリーフによって引き起こされる代表的な症状です。グリーフは感情面だけでなく、認知や身体面等さまざまなエリアに影響が出てくる、ということを知っていると、それだけで自分の中で起きていることが理解できますし、必要以上に心配しないでいられます。

私も、グリーフの状態の時には、人と会いたくない、昼寝をしないと疲労が取れない、食欲不振などに陥りましたが、グリーフの視点があることで、自分自身に優しいまなざしを向けることができました。

2 罪悪感にずっと苦しんでいたかもしれない

グリーフを学んでいなかったら、私は今でも罪悪感に悩まされ続けていたかもしれません。
息子を失った後しばらく、私は食事をしていても、美しい風景を見ていても、虚しさが止まりませんでした。
「自分が幸せになっていいのか」
「あの子が味わえなかったものを自分が享受していいのか」という思いです。

セミナーの中でサバイバーズギルトという言葉を知りました。サバイバーズギルトとは、大規模な事件や災害などに巻き込まれた生存者が抱く罪悪感のことで、助かったことに感謝しつつも、犠牲者を目の当たりにした経験から、自分だけが生き残ってよかったのだろうかという自責の念にかられることをいいます。

私の抱く罪悪感も似たようなものなのかもしれないと思いました。そして、それは自然な感情であることを学び、私は、息子への愛の表現として、罪悪感も持ち続けていたのだ、と気づきました。罪悪感ではなく別の方法で息子を愛し続ければいいんだよ、と自分に言うようになって、少しずつ罪悪感を手放していくことができました。

3 夫のことを理解できなかったかもしれない

死別体験の悲劇は、支えあうべき身近な人みんなが傷ついている、というところだと思います。
当たり前ですが、夫も私と同様、我が子を亡くす、という経験をしました。

夫も私も、行き場のない悲しみに襲われていて、いつも疲れを感じエネルギーが枯渇しているような状態で、なんとか身を寄せ合って生きていく、というような感じでした。お互いに余裕がない中でも、理解しあったり、支えあったり、というときに、グリーフの知識は大いに役立ったと思っています。

たとえば、私は仕事をするような意欲は全く湧かず、人とも会いたくなかったので、しばらくは家に引きこもっていましたが、反対に夫はワーカーホリックになっていきました。
精神的にぎりぎりなのがわかっているはずなのに、残業を繰り返して体を酷使していく夫を見て、理解に苦しみ、心配もしました。

グリーフサポートセミナーを通じて、ワーカーホリックが一種のグリーフ反応であることを学んだことで、夫の行動の背後にある深い悲しみを理解できたような気がしました。

仕事に没頭することで、過去に対する後悔や未来への不安など、余計なことを考えないでいられるし、一番悲しみから逃れられたのだと思います。同じ境遇を経験したとしても、その痛みの手当の仕方は
人それぞれなのだと腑に落ちた体験をすることができて、自分自身だけでなく、周囲の人々の悲しみに
対する理解も深まりました。

このようにグリーフに関する知識を得たことで、ずいぶん助けられていたのです。
グリーフを学ばなかったら、私はもっと自分の悲しみの扱い方に手を焼いていたかもしれませんし、
人それぞれグリーフから回復していくプロセスがあるということも分からず、夫へ不適切な態度を
とってしまっていたかもしれません。

●グリーフサポートセミナーは「自分を救うための学び」にもあふれている

今回は、個人的な経験をもとにグリーフを学ぶことの大切さについてお伝えしました。

人は正体がわからないものに恐怖を覚えます。お化けが怖いのも、得体のしれない存在だからで、
正体がつかめれば、脅威を感じないのかもしれません。

グリーフもそれに似ていると思うのです。

大切な人を亡くして、それまでの生活や環境も大きく変化してしまったとき、得体のしれない未知の世界に突入してしまったような気持ちになる人もいるでしょう。グリーフ反応による心や体に異変が起きて、自分が自分でないように感じる人もいるでしょう。

そんな時、学ぶという手段は、グリーフの正体をおぼろげにでも掴むことができます。
今、自分に起きていることを理論的に理解することを重ねていくことも、心に落ち着きを取り戻すためのひとつの手段となるのです。

グリーフサポートセミナーは、「自分を救うための学び」にも門戸が開かれていますので、ご興味のある方はぜひ飛び込んでみてください。

書いた人 穴澤由紀(セラピスト)

あなたもグリーフサポートを学んでみませんか?

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