看護師として遺族を支えたい。私が辿り着いたグリーフサポート。

看護師として遺族を支えたい。私が辿り着いたグリーフサポート。

どのような仕事や活動でもグリーフを抱えている方との接点は必ずあるはずですが、特に医療現場で働く人にとっては、生死に向き合っている人たちの支援は日常的なものであり、患者や家族から発せられる悲嘆のエネルギーにどう対応していくのか、悩んでいらっしゃる方も多いのではないかと思います。


*患者家族が抱きやすい感情についての関連記事はこちら:

医療従事者の方へ ~その一言が、ご家族を傷つけています~【前編】
医療従事者の方へ ~その一言が、ご家族を傷つけています~【後編】



今回は、医療従事者の立場からグリーフサポートを実践されている、訪問看護師の神藤ゆうこさんをご紹介します。

神藤ゆうこさん


神藤さんは、11年ほど前まで、都内の大学病院に勤務し、看護師として多くの患者さんと関わり、看取りも数多く経験されてきました。

そして、ご自身も20年前に当時の配偶者を突然に亡くされるという大きな喪失を経験されています。

医療従事者として、当事者として、これまでの人生で「死別」というものに向き合ってこられた神藤さんが選んだあり方は「看護師として遺族に寄り添いたい」ということでした。
 
生きるための支援をするのが医療従事者だと理解している人には、看護師が遺族に寄り添う、というイメージが湧きづらいかもしれません。

看護師が遺族のサポートを行うということは具体的にどういうことなのか、それが果たされた時どのような利点があるのか。また、現在の医療現場において悲嘆感情を抱える患者や家族に対してどのようなサポートができるのだろうか。
神藤さんのお話を読んでいただき、ぜひ皆さんも考えていただけたらと思います。


ずっと頼りにされていたのに、家族が遺族になった途端にサポートできなくなるというジレンマ


─看護師として遺族支援をしたいというのはどういう思いからですか?
 

看護師というのは、医師とはまた違う立ち位置にいると思うんですね。
治療にあたるだけではなくて、先生へ患者さんやご家族の気持ちを代弁したり、愚痴や弱音を聞いたり、それこそ下のお世話を含めたすべてのサポートを担うといってもいいと思うんです。
その分、患者さんやご家族とのコミュニケーションが密になりますから、同志のような家族のようなそんな連帯感を看護師に対して抱いてくださる方も少なくありません。
終末期の患者さんの担当にあたることも多かったのですが、亡くなったら病院とご家族はそこでご縁が終わってしまいます。
 
私達としても残念な気持ちがありますが、ご家族の方も同じか、それ以上ではないかと思ったのです。

今までなんでも話を聞いてもらっていた存在だったのに急に会えない人になってしまうというのは、心細さや不安に苛まれるのではないでしょうか。

死亡退院後、病棟に挨拶にいらしてくださるご家族もいらっしゃいますが、亡くなった場所に出向くというのは勇気がいることだし、想像を超えるストレスがあることだと思うんです。

そもそも現在の日本の病院には、ご遺族となってからのサポート機能はほとんどないですよね。

ですから、患者さんが亡くなったその後を我々が知ることはとても難しいんです。
最期のひとときを間近で見ていて、感情の引き受け役になっているのが看護師だし、誰よりも情報を持っているのに、ご遺族になった途端にサポートができなくなる。
それは病棟の看護師をしながら、ずっとジレンマを感じていました。

もし、ご遺族が急に手を離されて心許無く思っているのだとしたら、こちらから繋がるために出向くくらいの意識を持つことが大切なのではないかと思っているんです。

 

私も遺族。胸の痛みがずっと消えなかった。


——神藤さんは、配偶者を突然に亡くされたというご経験をなさっていらっしゃいます。遺族としての経験も今のご活動に繋がっていらっしゃいますか?

それはもちろん大きいです。
20年前に当時の夫と死別したのですが、突然の別れでしたから、悲しみも深く、なかなか気持ちの整理がつきませんでした。
グリーフケアは看護師教育の精神科授業の際に習いましたが、概論だけ学んだに過ぎず、当事者になってみると、あまり助けになるようなものではありませんでした。
 
現在はグリーフという言葉も認知度が高まってきていると思いますが、その当時は一般ではほとんど言われていなかったことなので、情報も少なかったのです。
 
絶えず沸き起こってくる悲しみをどうしたらいいだろう。
この気持ちを出せる場所が欲しい、と思っていました。
 
このような死別の苦しみを受け止めてくれるのはどこなのだろう。
精神科や心療内科? カウンセリング?  その程度しか思いつきませんでしたが、結局は看護師という仕事に没頭することで、折り合いをつけようとしていました。

彼と同じ職場だったから、彼との思い出もたくさんある職場で働くこと自体が癒しでもあったし、自分を奮い立たせてくれる場所にもなっていました。

でも悲しみが癒えることはありませんでした。

再婚して、子供を産んで、「今、私はとても幸せだ」と実感しているにも関わらず、亡くなった彼を思うと涙が出てくるんです。
突然の死別によるショックが強かった分、悲しみがなくならないことは当たり前だと思っていました。

でもある時、そうじゃないかもしれないと思ったんです。

自分の父が亡くなった際に、それはもちろん悲しいことだったけれど、時間がたつことで、折り合いがついていったよなぁ。
常に涙がでるほどの悲しみは自然に湧かなくなったよなぁ、と。

亡くなった彼のことは、なかなかそんな風に受け入れることが出来ずにいたのですが、それはグリーフが癒えていなかったからです。
 
しっかりとグリーフのことを学び、自分の中にあった思いや感情に向きあい、表現していくことで、その悲しみの質は大きく変わりました。

父を思い出すのと同じように、彼を思い出しても涙は出ますが、胸の痛みはなくなりました。
以前はこの死別経験を誰かに話したいという欲求がありましたが、誰かに聞いてもらわなくても大丈夫、と思えるようになったのです。

自分が健全に過去と折り合いをつけられたと思えてからは、悲嘆からなかなか抜け出せないでいる人の支援をする、いわば看護師としてグリーフサポートをするという使命感はより一層強まりました。
 


─病院の看護師から訪問看護師になられたのは、グリーフサポートを実践するためですか?

そうです。
病院で働くことも好きだったし、急性期や緊急時のケアに当たれることにもやりがいを感じてきたので、訪問看護にはあまり関心がありませんでした。
でも、病棟の看護師は、一度に何人もの患者さんを担当しますし、時間的にじっくりとお話を聞く余裕はなかなか持てません。

ご本人やご家族とゆっくり触れ合って、お気持ちを聞いたりするのは、訪問看護の方ができるかなと思ったんです。
 
実際に、訪問看護の世界に踏み込んでみると、患者さんやご家族との心の距離感が全く違うんです。
病院に入院している患者さんのご家族との距離が1キロだとしたら、訪問看護として関わる距離は1mくらいかな、というくらいとても近くに感じることが出来ます。
 
病院というのはやっぱり患者家族にとってアウェイ感があると思うのですが、自宅で過ごせるというだけでリラックスできますよね。
ホームという環境下にいられることで、その人らしさが出たり、お話をたくさんしてくださる患者さんやご家族が多いのです。

訪問看護は、積極的な治療を望まない人が選択することが多いので、比較的穏やかな時間が流れています。
そして、死ぬまで生きることを意識しながら毎日を過ごしている方には、
残された日々を出来るだけ快適に、思い残すことがないように過ごすために何ができるのか。
そういう思いを持って関わっています。


  ─お看取りが近いと予想されるご家族に対しては、どのような意識をもって接していらっしゃいますか?

ご遺族になられてからも、最期に自宅でよりよい時間を過ごせた、と思い返していただきたいんです。
そのためには、残された最期の時間の中で、患者さんとご家族の中で交わされる心の交流を大事にしてあげたいですね。
第三者である私達だからこそ、患者さん、ご家族それぞれの思いを引き出してあげることができることもあると思っています。
お互いが言っていることを間に入って繋いであげたり、よりよいコミュニケーションが出来るように支える、ということを意識して取り組んでいます。


─患者と家族が絆を深め、よりよいお別れをしていく、という部分を大事にされているということですよね。訪問医療だからこそ細やかに心の交流が図れるというところはあると思いますが、病院で行われている医療はどうなのでしょうか?

病院での終末期治療のあり方も、昔とは随分変わってきています。
以前は、一般的に救命一辺倒の医療が行われていました。
死は敗北だという捉え方をするドクターも少なからずいて、とにかく命を助けようと全力で治療に当たるわけです。
もちろん、助けたいし、そのための努力を惜しみたくないんです。
でも、積極的な治療を続けると、どうしても浮腫ませる方向にいく場合もあります。
最期のお姿を見て「これはお母さんじゃない」と悲しむご家族も出てきます。

現在は、救命のことだけでなく、見た目の変化や苦痛が強まることへの懸念も考慮しなくてはいけない、という風に医療現場の考え方も変わってきました。

ご家族の感情を大切に考えると、患者さんのお姿を出来るだけ変えない、というのも重要なポイントになってくるわけです。

医療従事者が、患者さんがどのように死を体験するか、ご家族がどのように死別を迎えるか、というところまで考えて治療に当たるようになってきたのは、良い変化だと思っています。

病棟看護師時代にしたくてもできなかったこと。今やっと叶った。


─お仕事柄、守秘義務の観点から患者さんの事例をお聞きするのは難しいと思うのですが、グリーフサポートを実践したエピソードをお聞かせいただけたら……。

病院勤務していた時に担当させていただいた患者さんで、その後プライベートで援助させていただいた方がいます。

出会ったのは、私が以前の夫を失くした20年前に遡ります。
喪中が明けてすぐに職場に戻って働いていたのですが、1ヶ月くらい経って「やっぱり彼はいないんだ」としみじみ思った時が一番辛かったんです。
ちょうどその頃に担当させていただいた男性の患者さんでした。

優しいお人柄で、「僕の初めての入院の受け持ち看護師さんだね」といって可愛がっていただきました。
ある時、あろうことか、その患者さんに自分の境遇をふと話してしまったんです。
「実は夫が亡くなって……」と。
患者さんに洩らしてしまうくらい、しんどい状態で仕事をしていたんですよね。

そうしたら静かな面持ちで「そんなことがあったのか……」と受け止めてくれて、一冊の本をくださったんです。
「あなたの何かの足しになるかは分からないけど、良かったら読んでみて」と。

とてもありがたかったけれど、その当時、グリーフが真っ只中なこともあり、活字が頭に入ってこなくて、本が読める状態ではありませんでした。

その方は退院され、私も退職してしまったので、そのまま音信不通になっていました。引越しなどに紛れて、いつのまにかその本も失くしてしまい、読むことができないまま月日が経っていきました。

それが、2年ほど前に、偶然、フェイスブックでその患者さんと繋がることができました。

悪性リンパ腫で、病状としては決して軽くなかったのですが、病気と共存されながらずっと頑張っていらっしゃったのです。
 
その後しばらくして、いよいよ余命宣告を受けたと知り、お見舞いに駆けつけました。
私の勤めていた病院でしたので、当時、担当看護師として関わらせていただいた場所での再会となりました。
面会に行って、時間を気にせずにじっくりとお話を伺いました。

病棟勤務時代は、6、7人の患者さんを並行して受け持っていましたから、ベッドサイドでゆっくり何時間もお話を聞くなど、とても余裕がなくて叶わないことでした。
せいぜい身体の調子を聞くことが精一杯で、心の奥底にある深い思いまで聞く時間も余裕もなかったのです。

患者さんの方も遠慮していますよね。
看護師さんを占領しちゃいけないとか、忙しそうだから後にしようとか。


でも、こうして知人として面会に行ってゆっくり話を伺うと、まったく違う関わり方ができました。
宣告を受けた時にどう感じたのか、死についてどう考えているか、ご家族への思い、残った時間をどのように生きたいのか、心の内の数々を聞くことができたんです。

これがグリーフサポートであり、グリーフカウンセリングだと思いました。
私がずっとしたいと思っていたことです。

同僚がまだ残っているので、病院側にも患者さんの思いを繋げることができました。

現場にいる医療従事者がしたくてもできない部分を、同じ医療従事者でもある私がグリーフサポートバディとして、第三者として、患者家族・遺族のために担える領域が確かにある、と実感した出来事でした。

その後すぐ、残念ながら患者さんがお亡くなりになり、お別れとなってしまいましたが、奥様とも面識があるので、タイミングを見て会いに行こうと思っています。

そして、この患者さんとの再会が、私にとっても癒しになったんです。
当時いただいた本をどうしても読めなかったということや、
紛失してタイトルも分からなくなってしまったということを伝えられないままだったので、申し訳なく思っていました。
今回、そのことをお詫びし、タイトルも聞き出すことができたんです。
20年越しにその本に再会できました。
当時どうしてこれをくださったのか、ということを考えながら読み進めています。
その本のタイトルですか? それは患者さんとの秘密にしておきたいと思います。


─最後に今後の抱負を聞かせていただけますか?

訪問看護師として引き続き、患者さんとご家族に寄り添っていきたいと思っていますし、お看取りになった後も、ニーズがあれば何らかの形でご遺族のサポートを続けていきたいですね。
グリーフサポートに関する講演活動や、自宅でのグリーフカウンセリングも始めました。
医療従事者の立場から、死に向き合っている人たち、遺族となった人たちを支え続けることを今後もずっと模索していきたいと思っています。

神藤ゆうこ氏 プロフィール

看護師。
(一社)グリーフサポート研究所認定グリーフサポートバディ。
都内大学病院に就職、6年目に結婚するも夫の突然死を経験。
計16年勤務し退職、再婚、出産。
10年のブランクを経て遺族と看護について改めて考えた。
グリーフの学びを深め 2018年6月グリーフサポートバディ取得。現在は訪問看護師、グリーフセミナー講師、グリーフカウンセラーとして東京都府中市を中心に活動を開始している。

フェイスブックページ:https://www.facebook.com/yuko.shindo.50
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(記事を書いた人:穴澤由紀)