[きよみのみかた-9]グリーフサポートを仕事に活かすということ

きよみのみかた

よく、私のブログの中や、(株)ジーエスアイの情報発信の中でも、グリーフサポートを仕事に活かすとか、グリーフサポートを軸にした葬儀、というような表現をすることが良くあります。

それがどんなことを指しているのか、どんな葬儀ならグリーフサポートが活かされていると言えるのか、そのあたりのことについて、少し書いてみたいと思います。

今回は、グリーフの知識を仕事の中にどう活かすのか、ということについて。

普段私たちは、日々のいろんな出来事を体験した時、喜怒哀楽などの感情が湧き上がってきます。でも、通常であればそれが楽しいことであれ、悲しいことであれ、話したければ家族や友達と共有したり、今どきであればFacebookやInstagramに投稿して、思いを共有することもあるかと思います。

しかしながら、大切な人を亡くしたとき、これは表に出してはいけない、人には言えないと思わせる様々な理由から、悲しみなどの湧き上がる感情を心にフタをして閉じ込めて、心の中にため込んでいる状態が「グリーフ」と言う状態です。


一方で、湧き上った感情を、心のフタを開けて自分らしい表現の仕方で外に出し、周囲の人がそれをあたたかく受け止め、共感してくれた状態を、専門用語で「モーニング」と言います。

本人が話しても誰かに攻撃されたり、否定されることがない、又はそういうことがあっても自分は大丈夫だと思えるような安全で安心な状況でなければ、怖くて心のフタを開けて思いを外に出すことはできません。

言い換えれば、話を聴く人が、どんな話だろうと最後までちゃんと聞いて受け止め、そして共感してくれる状況だと確認できれば、「グリーフ」の状態にある人が安心して「モーニング」という状態に移行することができるというわけです。

しかし、一度フタを開けて、抱え込んでいた思いや感情を表に出せたとしても、何かのきっかけで再び心のフタを閉めて、感情を閉じ込めた状態に戻ってしまうことがあります。

つまり私たちは「グリーフ」と「モーニング」の間を行ったり来たりを繰り返しながら、自分の気持ちを整理したり、悲しみと向き合う作業と言う意味の「グリーフワーク」に取り組むことによって、閉じ込めている「グリーフ」の状態にいる時間が少なくなり、喪失による心の傷と折り合いがついて、元気になっていくのです。


そこに至るまでの時間は、人それぞれです。何十年もかかる人もいれば、数年で折り合いがつく人もいます。気持ちの整理ができて折り合いがつくまでには、回り道や間違った道を進むこともあるかもしれませんが、信頼できる誰かに支えてもらいながら、焦ることなくゆっくりと自分のペースで「グリーフワーク」に取り組むことによって、必ず折り合いがつく日はやってきます。


一方で、グリーフサポートは葬儀が終わった後の心のケアであったり、看取りの場面にだけ必要だと思っている方がとても多いと思います。だから、宗教者やカウンセラーなどのやることで、葬儀社の自分たちがやることじゃない、又はできないと思っている方がとても多いのではないでしょうか。

ジーエスアイが考えているグリーフサポートは、ご遺族の話を聞き、共感してあげることだけを指しているわけではありません。先ほど説明したような「グリーフ」の状態にある人が気持ちの整理をしながら大切な人の「死」と向き合い、折り合いをつけることができるように、話を聞くということを始めとする、色んな方法、色んな形でサポートをすることだと考えています。


では、これらを踏まえた上で、どの様にサポートをしていけばいいのでしょうか。

まず、話を聞くと言えば、打ち合わせの時間です。

例えば葬儀の打ち合わせをする場面を想像してみてください。

あなたは大切な人を亡くしたとき、葬儀の打ち合わせに参加しているご遺族のことを本当に理解していると言えますか?

家族の死別を体験したとき、ショックで何が何だかわからないまま打ち合わせに臨んでいる人もいるでしょうし、怒りを感じている人がいたり、もうその人がいないということで、これからの生活全てのことに対して不安に感じ、他のことが手につかない人もいるかもしれません。

打ち合わせの相手がどんな状態にあるのか、勝手に判断してはいないでしょうか?

グリーフの症状として1つの例を挙げると、ショックや麻痺した状態にある人は、これ以上自分自身の心が傷ついたり壊れてしまわないように、防衛本能として外からの情報をシャットアウトして身を守ります。すると、話を聞いてくれているように見えて、まったく耳に届いてない可能性があるのです。

にもかかわらず、長い時間自分のペースで話しを進めていないでしょうか?

細かい字で書かれた資料を見てもらうようにお願いしていないでしょうか?

何回伝えても憶えてもらえない状況に対してイライラし、「先ほどもお伝えしておりますが……」などど言ってしまったりしていないでしょうか?

残念なことに、ショックや麻痺した状態にある時には、取捨選択して必要な情報を取り入れるわけではありません。入ってくるすべての情報をシャットアウトするため、悪い情報だけでなく、自分にとって必要な情報も入って来なくなってしまうので、覚えていられなくなるのです。自分で忘れないようにメモしても、そのメモ自体がどこに行ったか分からなくなってしまうなんてこともあるのです。

このようなことを知識として知っているならば、相手のペースを確かめながら話を進めたり、小さな字の資料はゆっくり後で読んでもらったり、大事な部分は拡大コピーをお渡ししたり、同じことを何度も質問されるような時は、自分がメモに書いてお渡しするとか、書いたものを目につくところに貼っておいていただくとか、何かしら工夫をして対応することもできると思います。

グリーフサポートを学んだある葬儀社では、夜中に搬送があった場合は、故人のお身体の様子を確認した後、そのまま打ち合わせに入ることをやめて、その日は資料だけを残して帰ることにしたそうです。

家族にはゆっくり休んでいただき、翌日改めて打ち合わせの時間をとっていただくようにしたところ、ご遺族は打合せまでに自分のタイミングで資料を見ておいてくれるようになりました。ご遺族に合せてやり方を変えたことによって、翌日の打ち合せはスムーズに進むようになったと言うことでした。

大切な人を亡くしたとき、どんな症状が現れるのかを知っているだけで、ご遺族への対応が大きく変わってきます。そして、ご遺族が安心して打ち合わせに臨んで下さることによって、悔いのないお別れを考えていただくことができます。

但し、勘違いしないでいただきたいのは、全ての人が同じ状態ではないと言うことです。

大切な人を亡くした人は、みんな同じように対応すればいいということではありません。

一人ひとりの体調や状況を観察して寄り添い、打ち合わせの時間を通じて心を閉ざしているグリーフの状態から、気持ちを表に出し共感してくれたと感じるモーニングの状態に自然と変化させることができれば、葬儀の打ち合わせはカウンセリングと同じ効果を産み出すことができます。

打ち合わせと言うのは、葬儀のことを決める時だけでなく、さまざまな仕事で発生します。終末期医療で緩和ケアをどう進めていくのか相談する時にも同じことが言えると思います。

ご遺体の処置をするときや、石材店の方がお墓について打ち合わせをする時、あるいは学校の先生が子ども達と接する時にも同様で、ありとあらゆるところで大切な人を亡くした人の話を聞いたり接したりする場面はたくさんあります。

つまり、打ち合わせなどのタイミングを利用してグリーフの知識を活かし、まずはご遺族が自分の気持ちと向き合うきっかけや、向き合うための場を提供することで、自然にグリーフからモーニングの状態に移行するお手伝いをすることも1つの重要なグリーフサポートなのです。

そしてさらに、多くの人にとってサポートをする機会があるということなのです。

ジーエスアイでは、様々な業種の方たちが仕事を通じてグリーフサポートをすることができるようになると、ご遺族を支えていくネットワークができ、ご遺族が不安を抱えて1人でグリーフに苦しむことから解放されると考えています。

ジーエスアイのグリーフサポートセミナーを学ぶことによって、葬儀後の心のケアとしてだけでなく、様々な仕事をしている方たちに、グリーフサポートとして自分に何ができるのかついて考えていただきたいと思います。

(書いた人:橋爪清美)

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