認知症かも? 配偶者を亡くした高齢者の様子が気になる時。

葬祭サービス

ジーエスアイスタッフ、グリーフサポートバディの穴澤です。

グリーフカウンセリングも行っていますが、寄せられるご相談内容には、ご本人の問題だけではなく、ご家族についての心配事も含まれます。

多いのは、配偶者を亡くした後の、高齢である父親や母親の変化についてです。
配偶者を看取った後に、認知症を疑うような行動や態度が見られるというものです。

プライバシーの観点から、実際のカウンセリング事例をもとに、一部編集してご紹介します。
 

母の様子がおかしい


Aさん(40代女性)は、「どうも母親の様子が気になるんです」とカウンセリングにお越しになりました。

お母さんは、1年ほど前に夫(Aさんの父親)と死別し、現在は九州でひとり暮らしをしているとのこと。

Aさんは東京で夫と子供と4人暮らし。子育てに追われる毎日で、なかなか実家には帰れない状態の中で、母親とは主に電話で連絡を取っているそうです。

母親の言動に違和感を感じはじめたのは、「孫の誕生日を忘れていた」ということが発端でした。
 
「これまでは、必ず誕生日の数日前にプレゼントを送ってくれて、お祝いの電話をしてきてくれていたんです。それが今年はなにもなかったんですよね。
兄弟に聞いたら、どの孫に対してもそうで、すっかり記憶から抜け落ちていたようです。
母は、常に子供や孫のことを気にかけていて、こういうイベントを大事にする人だったから、忘れていたということにちょっとびっくりして……」

電話で話している限り、元気そうではあるし、認知力に問題があるようには思えないけれど、でも外出や料理など、いろいろなことを億劫がる傾向があり、気力が低下しているように感じるそうです。

「もともと、そんなに活動的な方ではないし、家族のために尽くしてきた人だから、ひとりになるとやる気が出てこないんだろうなぁと思うんですよね。でも、このままでは認知症になってしまうんじゃないかと心配で」

皆さんも、配偶者を看取った高齢者が、すっかり気力をなくしたり、急に老け込んできたようで心配だ、というような話を聞いたことがあるのではないでしょうか?
 

認知症の症状とグリーフの反応の類似点

このAさんのお母さんのように、今までの習慣を忘れてしまっていたり、言動が少し変化してくると、年齢的にも認知症の始まりなのでは? と不安を覚えるご家族も多いと思います。

認知力、記憶力、気力の低下が見られる時、すぐに認知症に結びつけがちかもしれませんが、グリーフの視点も取り入れて、相手を観察してみると、より深く理解してあげることができるかもしれません。

グリーフによる反応と認知症の症状は、似ている部分があるからです。

大切な人を失い悲嘆が高まっている時、このような状態になることがあります。


✔ 活字が頭に入ってこない。
本好きだったのに、読書をする気力がわかない。
文字を目で追っても、すっと理解できない。

✔ 忘れっぽくなる。
約束事をすぐに忘れてしまい、何度も確認してしまう。
うっかりミスが多くなる。
アポイントメントを忘れてしまう。
ダブルブッキングをしてしまう。

段取りがうまくできない。
作業の進め方が分からず、迷ってしまう。
手際良く料理を進められなくなる。
同時進行の仕事がこなせない。
 
✔片付けられなくなる。
部屋の整理ができなくなる。
外出や旅行の時、荷物のパッキングが難しくなる。
 
✔引きこもりがちになる。
人に会いたくなくなる。
外出が億劫になる。
はじめてのことにチャレンジするのを嫌がる。

いずれも、喪失体験の後、今まで出来ていたレベルで出来なくなる、という意味で、このような状態が起きている時は、グリーフによって生じることも多いのです。
 
グリーフは病気ではなく、喪失体験のショックからの自然な反応であり、認知症とは関係なく起きています。

悲嘆の苦しみから自分を守ろうとする防衛反応が強く出ている状態なので、外側からの刺激を受けないように、心を閉ざしている場合が多いのです。

外側とのコミュニケーションを取るためのエネルギーも枯渇しているので、今まで普通にしていた人間関係の付き合いができなくなったり、意識が向かなくなってしまうのもグリーフの特徴的な反応です。

こうした反応もグリーフの症状のひとつであることを知っている人は多くはないかもしれません。

でも、大切な人を失った時に一時的に物忘れがひどくなったり、本が読めなくなってしまうこともあるんだ、と知っているだけで、無用な心配が減ることもあります。

グリーフの影響があるのかもしれない、という視点を持つと、相手の抱えている悲嘆の気持ちにも気付いてあげられるかもしれません。

会話の中で、悲しみや怒りや切なさ……心の中に抱えている感情を漏らしてくれていたら、優しく受け止めてあげてください。

日常生活で困っていることに気付いてあげることもサポートのひとつです。

また、普段の生活の中で困っていることがないかどうか、支障が出ていないか、そこに注意を払うこともサポートのポイントになってくると思います。

大切な人を失ったことによって、日常生活のどこかに困難を感じている人も多いのです。

それはほんの些細なことだったりしますが、本人にとっては、物理的に生じている問題に、精神的な痛みが上積みされている状態なので、周囲が思っている以上に困難さを感じていることがあります。

前述のAさんには、このようなお話をさせていただいたところ、
「確かに、この間も、電球が替えられないとか、包丁を研ぎたいけど難しいと言っていました。それらは父の仕事だったので、長い間、自分でやったことがないんですよね」とおっしゃっていました。

電球を取り換えるとか、包丁を研ぐ……それまで夫がやってくれていた作業を今度は自分でやらなくてはいけない。
そう思った時に、愛する人がそばにいないことを実感し、悲しみがやってくる。

そんな風に、ひとり暮らしをしているAさんのお母さんが、日常の中で気持ちをつまずかせている場面が見えてきたら、そこを支えてあげたらどうでしょうか、とお伝えしました。

亡くなったお父さんの代わりに「困っていること」を誰かが助けてあげるという行為は、物理的な問題解決だけではなくて、お母さんの中に繋がりの安心感をもたらしてくれるものではないでしょうか。

そうやって、喪失のもたらす心の痛みを少しづつ癒していくことができると、グリーフの反応も薄らいでいくのではないかと思います。

今回は、認知症とグリーフの症状の類似点についてお話しました。

グリーフが原因で、認知力や記憶力の低下が一時的に生じていることもあるということを知っておいていただくと、大切な方を支える時に参考になるかもしれません。

もちろん、認知症の疑いを感じられた際には、専門医に相談するなど適切な行動が必要です。その際には、配偶者を亡くしたことを伝えていただいた上で、病状を判断していただくのが良いでしょう。

これからの年末年始シーズンで、遠く離れた故郷のご家族と久しぶりにお会いになる方もいらっしゃると思います。

みんな笑顔で、心温まる団欒のひとときをお過ごしになれるといいですね。


(書いた人:穴澤由紀 グリーフサポートバディ/グリーフサポートカウンセラー)

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