徹底した「聴く力」で想いを引き出す~葬儀司会者という仕事~

あなゆきnote

人生最期の大切な儀式である葬儀を進行する葬儀司会者。
葬儀会社のスタッフが行うことも多いですが、葬儀司会者として専門的に活動するプロフェッショナルもいます。
今回は、鹿児島県で約20年葬儀司会者として活躍されている森田理恵子さんをご紹介します。
実際には葬儀の進行を司るだけでなく、ご遺族や参列者への精神的なサポートや故人と残された人々を繋ぐメッセンジャー的な役割を果たされていることが分かりました。
 

葬儀司会者の森田理恵子さん

葬儀司会者の仕事

 
Q:葬儀の司会者はどんなことをするのか簡単に教えていただけますか?

森田氏: 葬儀の司会は全体の進行を任されていまして、通夜、葬儀の儀式を滞りなく終わらせる事がまず基本の仕事になります。

主に提携している葬儀会社から依頼を受け、通夜または葬儀が始まる1時間半程前に現場に行って、ご遺族の方に挨拶をし、故人に関する話を色々伺わせていただきながら、進行に関する打ち合わせをしていきます。

それから式が始まるまでの間に、葬儀会社の担当者と打ち合わせをしたり、ナレーション原稿の作成などをしていきます。儀式全体の演出に関わることは難しいですが、故人や遺族の思いをより反映できるように、音楽や導線、進行の流れなどを提案し、その場で変更していくことも多いです。

実際に儀式が始まれば進行を行います。通夜だけ、葬儀だけという場合もありますし、両日通しでご依頼をいただくこともあります。


Q: 故人や遺族に関する情報はほとんど知らないで現場に行くこともありますか? 
 
森田氏: そうですね。事前に葬儀会社から、礼状の内容を見せていただくようにしていますので、それが知り得る情報となります。先に分かっているのは、故人のお名前、性別と年齢、および家族構成などくらいでしょうか。
 
オリジナル礼状(*1)を作られている場合は、故人のお人柄、趣味や思い出なども綴られていることも多いので参考にはさせていただきますが、現場で遺族とお話しをさせていただくときはまっさらな気持ちでお話しを伺います。できるだけ、直接遺族の思いやご意向を感じ取ったうえで表現したいというのがあります。
 
(*1)お礼状専門のライターが、お電話でお話を伺い、故人の人生が表現されたオリジナルの礼状を作るサービス。
 

Q:ということは、たった1時間半で遺族の思いを引き出し、ナレーション原稿に仕上げているということですよね? すごく忙しいと思うのですが、原稿を作る時のフォーマットのようなものはあるんですか?

森田氏: 毎回、一から作っています。もちろん自分の中でのパターンのようなものは多少あって、締めの言葉などは型があるのですが、故人のご紹介に関しては、唯一無二の人生を語るわけですからフォーマットに埋めていくような形ではどうしても作れないんです。
 
時間的な制約の中で仕上げなくてはならないので、文章に凝ることはできませんが、日本語として正しいことと、何よりご遺族の言葉を出来るだけそのまま届ける、ということを心がけています。
 
ご遺族とのお話しをしながら、短い言葉でもその人を表す言葉を見つけてあげたいと思っています。
 

上手にしゃべること以前に、いかにご遺族のお話を聴けるか


Q: 司会者として一番、大切にされていることはどんなことですか?
森田氏: 「ご遺族の話をきちんと聴く」ということです。
 
司会者として駆け出しの頃の話をしますね。
ご主人を亡くされた喪主である奥様との打ち合わせが終わり「つたない司会ですが、精一杯ご紹介させていただきます」とご挨拶したところ、「あなたにお話しを聞いてもらっただけで、気持ちが楽になって、落ち着いてきました。本当にありがとう」とおっしゃってくださったんです。
 
私としては、ちょっと拍子抜けしたんですね。
まだマイクも持っていないし、何も仕事をしていないのにって。
その頃は、経験もまだ浅く、自分は人前で話すことも好きなわけではないから司会業に向いているのかなと半信半疑だったんです。
 
先輩の司会者の背中を追いかけて、いかにうまく進行するにはどうしたらいいか、ということに意識が向かっていたのですが、この感謝の言葉をいただいたことで、打ち合わせの大切さを実感できたんです。
 
上手にしゃべること以前に「ご遺族のお気持ちや思い出をきちんと聴く」ということに意義がある仕事なのかもしれない、と思いました。
振り返れば、その気付きが司会者としての原点になっています。


Q: 初顔合わせで、大切な存在を亡くされたばかりの方から思いを聞かせてもらうって大変なことだと思うのですが、心掛けていることはありますか?

森田氏: ご遺族からしたら、通夜や葬儀の直前に、心情やら要望やらを話すってしんどいことだと思うんです。まだ心の整理がついていない方がほとんどですから、自分のお気持ちや考えをしっかり言語化すること自体が難しいんです。
 
以前は、「〇〇さんのご紹介をしたいと思います」と言って打ち合わせに入っていったんです。すると「そんなのは要らないです。普通でいいです」なんておっしゃる方もいて……そうなると、それ以上は聴けなくて、すごすごみたいな……(笑)

ジーエスアイで学ぶようになってから、まず「〇〇様の思い出を大切にした、皆様にとって意義あるご葬儀になるようお手伝いさせていただきたいと思っています。」と自己紹介するようになりました。すると、そこで少し考えてくださいます。

話し初めはポツポツだったりします。でも、決して急がせない。沈黙を怖がらない。ゆっくり反復しながら……あくまでご遺族のリズムに合わせて。そんな工夫をしながらお話しを伺っていくと、自然に話が広がり、遺された方々の故人に対する思いや、故人の人生の輪郭が見えてきます。

もちろん、うまくいかない時もあるのですが、それでも私自身が焦らなくなりました。

「話したいなぁと思われたら、いつでもお声かけてください」と待てるようになりましたね。

グリーフサポートバディ、セレブラントの資格を取得して変わったこと

Q: 森田さんはご遺族を支えるグリーフサポートバディ®であり、儀式の専門家 セレブラント®でもいらっしゃいますが、資格取得後、打ち合わせに変化はありますか?

森田氏: 話を聞く大切さはずっと分かっていたつもりでしたが、グリーフサポートやセレブラントの勉強をしてから、反省したんです。
 
「聞けているつもりでいたけれど、実は今まで聞きたいことだけに耳を傾けていたかもしれない」と。

儀式の進行のために必要なことを聞きだそうという姿勢だと、自然に話題を誘導してしまっているかもしれないな、と気づきました。
 
具体的に言うと、例えば、故人の悪口や愚痴をおっしゃるご遺族もいらっしゃるわけですね。それをナレーション原稿にするわけにはいかないので、正直、進行には不要な情報です。
そういう話になると頷きつつも、なんとなくスルーして別の話題にもっていったりしました。
 
でもご遺族から出る話題、言葉というものには意味があって、そこに寄り添っていく姿勢があるかどうかというのは、大切な要素だと思うんです。
 
打ち合わせの中で、自然に出てきた思いや感情を安心して表出できるということが、ご遺族にとって心の整理やよりよいお別れに繋がっていくものではないかと思っています。

葬儀とは亡くなった方との出会いの意味を考える場でもある

Q: 森田さんは葬儀の意味をどう捉えていらっしゃいますか?

森田氏: 葬儀は悲しみと向き合うための大切な儀式であると実感しています。
亡くなった方とご縁のあった方々が集い、思い出を語り合い、悲しみなどいろんな感情を素直に表現して、互いに支え合う事によって、少しずつ現実を受け止めていけるのではないでしょうか。
その方の生きた意味、その方との出会いを改めて考える場でもあります。

悲しみの中にあっても、人と人とが繋がる感動的なご葬儀も見てきました。

しかし、実際には、どうしても形式的であったり、風習に則って行ってしまうことが多いと思うのです。
本当は、故人やご家族だけの思いの表し方があり、価値をおくところもそれぞれのはずなのになかなかそれが反映されない。

それは漠然と心の中であるだけで、どう形にしていいのか、どう表現すればいいのか方法が見つからずにいるからかもしれないなぁと感じます。
葬儀自体が良い思い出になるようなお手伝いがしたいですね。

心温まる儀式を一緒に作りたい

Q: 森田さんは司会者としてたくさんの葬儀に立ち会ってきていますから、どんな風にご家族が故人に対する思いを表現していけるのか、ヒントをお持ちですよね。
 
森田氏: そうですね。
たとえば、この間は、ある葬儀の中で8人くらいのお孫さんたちが順番に故人であるおばあちゃんの経歴を時系列で紹介されたんです。
とても心温まる時間になりました。
準備をするにあたって、古い写真の整理をしながら、ご家族で故人の人生を振り返っていかれたんですね。
そのわかちあう時間がとても意義深かったと思うんです。おばあちゃんの人生が子供たちの胸に刻まれ、次世代に受け継がれていくことになったのですから。

このように、さまざまな心温まる儀式に立ち会ってきたので、その経験も踏まえて、良いご葬儀に繋がるヒントをお伝えしていきたいという思いがあります。
 

Q: 儀式の専門家であるセレブラントにもなられ、これからどのように活動を広げていかれたいですか?

森田氏: 司会者として現場に入った時というのは、儀式全体の大枠はもうすでに決まっているんですよね。なので、儀式全体をデザインしていくということは難しい。
ご提案したいことがあってもタイミング的に間に合わないので、儀式のもっと早い段階から関わりたいなという思いがありました。
セレブラントとして事前相談を承ることができれば、しっかりと思いを伺いながら、これまでの形にこだわらず、ご本人やご家族らしさを反映したオンリーワンの葬儀をご提案することができます。
司会者に留まらずに、そのようにお客様と深いつながりを築きながら、儀式全体に関われるようになっていきたいですね。



 

プロフィール
森田理恵子(もりたりえこ) 
 
ピアノ講師として子どもや大人のレッスンをする傍ら、婚礼でエレクトーン・ピアノ演奏をしていたが、1998年、縁あって某大手葬儀社にて司会・ピアノ演奏・アテンダント・控室の清掃など、葬儀現場の女性の仕事を請け負うようになる。 葬儀現場における様々な業務に従事し、葬儀を一から学ぶ。
 
2001年 有限会社エムアール・コーポレーションを設立。
2007年 一般社団法人自分史活用推進協議会認定 自分史活用アドバイザー資格取得。
もっとご遺族の為にできることがあるのではとの想いから2015年より、株式会社ジーエスアイで、以前から興味のあったグリーフサポートを学ぶ。
2017年 一般社団法人グリーフサポート研究所認定 グリーフサポートバディ資格取得。
2018年 セレブラントを学んだのを機に、であいのそうぎドットコム立ち上げる。
2019年 6月 一般社団法人グリーフサポート研究所認定 セレブラント資格取得。
 
現在、約10社からの司会・ピアノ演奏の依頼を受け、スタッフを派遣。自らも司会者として奮闘中。

●グリーフサポートバディについて: http://www.griefsupport.co.jp/griefsupport/buddy.html
●セレブラントについて:
http://www.griefsupport.co.jp/griefsupport/celebrant.html#p1

(記事を書いた人:穴澤由紀)

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