こんにちは、ジーエスアイ代表の橋爪謙一郎です。
前回の【Ken’s Room】でもお伝えしましたが、グリーフケアの第一人者であるアラン・D・ウォルフェルト博士(Alan D. Wolfelt, Ph.D)が主催する、センター・フォー・ロス&ライフ・トランジション(Center for Loss and Life Transition)でのセミナーに参加してきました。
今回も多くの気付きがありました。
その中でも、恩師アランが実践している気配りが行き届いた場づくりについて、また、一緒に学んだ受講生のシェアによって気付かされた終末期医療におけるグリーフの理解の大切さなどをお伝えしたいと思います。
安心安全にこだわった学びの場
自分自身が、講師としてセミナーを行う際に気をつけていることですが、講師から提供される知識だけから学ぶのではなく、一緒に参加している受講生同士から学べる様に配慮されているセミナーは、学びや気づきなどを初めとする「得るもの」が多い気がします。そのためには、学びの場が安心安全な場になっていることが不可欠だということを、今回改めて気づかされた感じがします。
安心安全な場を作るために、細部にまで配慮が必要なのですが、今回新しい会場に移ったのも、その部分をさらに充実させるためでした。会場内での座席の配置は、お互いに話しやすいようになっているだけでなく、30人以上の受講生がいるのに、講師が話すときはもちろん、受講生が共有する場合も大声を張り上げなくても全ての人が聞き取れるように、外からの音が入りにくい部屋を選んでありました。外からの音が聞こえるということは、自分たちの話が外に漏れているということなのです。
さらに、部屋には窓が付いているのですが、覗かれるのでは?と感じて気にならないように、ブラインドがつけられていて、視覚的にも聴覚的にも配慮が隅々まで徹底的に行き届いていました。
そして、共有をしているときの講師の話の聴き方は、受講生にとって、まさにモデリングの見本や理想になっていました。僕自身もこの部分は、もっと気をつけなければいけないと強く感じました。
また、受講生が勇気を出して自分の体験や思いを共有している時に、他の受講生が尊重し、受容できている時には、講師であるアランが「みんながしっかりと相手の話を受け止めて、尊重をしてくれて感謝しています。」というフィードバックをしっかりとしていたことは、早速取り入れたいと思います。
こうした「安心・安全」な環境を準備された中で、グリーフサポートを効果的に学んでもらうために必要なことは、「知識を学ぶ」ことに加えて自分自身の体験に向き合って気づきを得ることではないかと思います。恩師アランは、その辺りが本当に絶妙で、彼自身から発信をするものと、受講生の内面から溢れ出てくる叡智ともいうべき「体験」に基づく自分自身の気づきを引き出すことを繊細に組み合わせているのです。
受講生が語る事、ライフストーリーを聴いていると、僕自身もいろいろな気づきが溢れてきます。そんな気づきの一つを共有したいと思います。
アメリカの終末医療体制とは
アメリカのホスピスを初めとする終末期医療は、日本よりも患者だけでなく家族のQOL( Quality of Life)に配慮されていて充実しているという教科書の中の「理想」と「現実」を考えさせられるきっかけになった気がします。
ホスピスケアを提供する際には、さまざまな医療従事者やその他の専門家が関わっており、患者やその家族が必要とする支援を提供できるように、それぞれ異なる役割を担う形になっています。本人の希望に沿うべく痛みや症状のコントロールを行うことは重要であり、定期的にホスピスプランを再検討して柔軟に対応できる様にしていると言われています。このようなホスピスの提供を行う際にはホスピスチームが多職種により構成され、関わっている職種は以下のようになっています。
1)医師:担当医とホスピスの医師(もしくはメディカルディレクター)。ホスピスケアに関して監督します。
2)看護師:ケア受給者のところに出向いてケアを行い、またケアプログラムの調整をします。
3)在宅ヘルパー:入浴や食事などの日常的なケアもサポートします。
4)スピリチュアルカウンセラー:牧師や神父などが本人や家族など家族全員に対して心理面からのアプローチを行い、死の受け入れや心安らかに余生が過ごせるようにサポートします。
5)ソーシャルワーカー:カウンセリングとサポートを行います。
6)薬剤師:症状緩和を最も効果的にするため、投薬指導や監督を行います。
7)ボランティア:訓練されたボランティアが、交通機関利用時の補助やさまざまなニーズに対応します。
8)その他の専門家:理学・作業療法士や言語聴覚士、音楽療法士など必要に応じてケアを行います。
患者さん一人ひとりにあったホスピスケアが受けられるように、 さまざまな職種の人たちが、 チームでケアを行っています。(引用:Hospice Care :Comforting the terminally ill Mayo-clinic)
終末期に寄り添う時、グリーフの理解は不可欠
一方、上記の様な体制が整えられているものの、実際にはたくさんの問題を抱えていて、その中で働く人たちは、深い悩みや大きな壁にぶつかっているという事が、切実なものだということも強く感じました。
上記のスピリチュアルカウンセラーに当たるチャプレンは、今回参加している受講生の中で一番多い職種でした。病院やホスピスに働いているチャプレンの悩みの一つは、医師や看護師などの医療従事者が、ご遺族に対するコミュニケーションを取る際に「グリーフ」についての理解はアメリカでも十分ではなく、グリーフの状態にある遺された家族の心に深い傷を与えてしまう様なケースが多いというのです。
さらに、スピリチュアルカウンセラーも、終末期の人が投げかける問いかけに宗教的な教えや答えを提供することに固執してしまうことが問題を起こしているというのです。確かに信仰を持っているからといって、その中から得られる価値観や人生観は、宗教者と信仰を持っている人が同じという訳ではないですから、型通りの教えを提供されることによって、逆に拒絶されたと感じる人も多いのです。
「全ての答えはクライアントが持っている」のですから、クライアントが自分の感じていることを話せるように、安心安全な場を作ることに集中する必要があることを実感しました。
今回の学びを終えて
これまでジーエスアイのセミナーに参加してくださっている受講生の職種もだいぶ多様化してきましたが、もっと多くの職業の方に参加してもらい、大切な人を喪って支えが必要な方に必要な支えが提供されるような、新た研修テーマが浮かんできました。帰国後、準備をしてお知らせしたいと思いますので、ぜひ楽しみにしていて下さい。
(記事を書いた人:橋爪謙一郎)