流産グリーフ。おなかに宿った命との別れに向き合う。

流産グリーフ。おなかに宿った命との別れに向き合う。

流産という喪失体験も、強いグリーフ反応を示すことがあります。
今回は、「流産グリーフ」とは何か、そしてどう向き合っていくことが良いのかを考えていきます。


流産をきっかけとしたグリーフが疑われるお悩み


心理セラピストとして、30代~40代の女性とお会いする機会が多くあります。

ちょうど出産年齢に重なる世代なので、流産を経験された後のご相談も少なくありません。

たとえば、このようなお悩みをお聞きします。

  • 突然、強い悲しみが湧いてきて涙が止まらなくなる。
  • 元気な時と落ち込む時の落差が激しく、情緒不安定になっている。
  • 気持ちがふさぎ込む日が多くて元気が出ない。疲れやすい。
  • 食欲がない。眠れない。
  • 次の妊娠が怖くなってしまった。赤ちゃんは欲しいけど、妊活に前向きになれない。
  • 夫婦関係がなんとなくギクシャクしてきた。
  • 友人に会いたくない。
  • 自分に自信が持てなくなった。

このような時は、流産をきっかけとして、いわゆるグリーフの状態に陥っている可能性があるかもしれません。

グリーフという言葉を初めて聞いたという方もいらっしゃるかもしれませんが、直訳すると「悲嘆」という意味です。

大切な存在を失った時、悲しみをはじめとするさまざまな感情や思いが湧いてくるでしょう。その湧き上がる感情や感覚、思いを外に出せずに心の中に閉じ込めている状態が続くと、心身に不調や変化が生じてくることがあります。

精神的に不安定になるだけでなく、不眠や食欲不振、無気力、疲労などさまざまな面に影響が出やすくなりますので、前述のような症状は、グリーフに陥った時に現れる典型的なものだと言っていいと思います。


多くの女性が人生の中で流産を経験しています。

流産は、おなかに宿った命が出生することなく終わってしまうわけで、会うことができないまま別れを迎えることになります。
 
そう捉えると、特別な死別体験だと言えると思います。
 
妊婦の15%は流産を経験すると言われていますので、決して少ない数字ではありません。

多くの女性が人生の中で流産という喪失を味わっていることになります。

そして、流産のもたらす影響度というのは、思いの大きさ(どれだけ妊娠を希望していたか)、状況(妊娠の週数や妊婦の年齢、医療従事者によるケアの有無等)や思想(死生観や胎児に対する考え方等)によってもずいぶん異なります。

流産してもあまりダメージを感じない人もいますし、早い段階で前向きな意味付けをする人もいます。

一方で、深い悲しみや失望感、自責の念などを感じる女性も多く、折り合いがついていくまでに長い時間を要したり、生涯に渡って供養を続けながらその喪失感と向き合っている人もいます。

流産によって引き起こされるグリーフの苦しみはどのようなものなのでしょうか。

大切な存在との別れはいずれも辛く悲しいものですが、流産というおなかに宿った命との別れには、それ特有の思いがあるようです。
 
流産による悲嘆の中でお話ししてくださった女性たちの声をいくつか紹介させていただきたいと思います。

  • 私のせいでごめんね、という気持ちがどうしても消えません。

流産の原因を自分のせいだと思ってしまい、赤ちゃんに対する謝罪の気持ちや罪悪感、自責の念を抱き続ける女性も多くいます。

  • ママという役割を奪われたようで辛いです

妊娠が分かった瞬間から、母親になるんだという実感が湧いてくるものです。流産によって母親という役割も失うことになるので、母親になることに喜びを感じていた人ほど、失望感はより大きくなります。

  • 戸籍にも残らない命だということが悲しみを深くします。

おなかの中に赤ちゃんがいた事実を戸籍に残すことができないことに悲しみを覚える方もいます。短い間とはいえ、おなかの中で宿っていた命があり、お母さんはそれを体感しています。
それなのに、この世に何の足跡も残せなかった、という思いが悲しみを深くするのです。
※流産の場合は、出生届を出さないため、赤ちゃんの戸籍は作られません。(妊娠12週以降の流産は死産届を出す義務がありますが、その場合も戸籍には残りません)

  • いつも通りを装って、すぐに日常に戻らなくてはいけなかったのが辛かったです。

身体もまだ十分に回復していなかったり、悲しみにも浸る時間も持てないまま、手術の後すぐに忙しい日常生活に戻っているケースも多くあります。
流産直後の女性の身体はホルモンバランスも崩れていますので、心身ともに不安定です。その状態を抱えながらも、職場の誰にも言えないまま、いつも通りを装って仕事をこなしていると心身に負担がかかりやすくなります。

  • だんなさんが気持ちを分かってくれない。悲しみの温度差を感じました。

流産に対する受け止め方、その表現の仕方は人それぞれ。
特に命を授かったことを全身で感じていた女性と、そうでない男性では捉え方が違う場合も多いものです。
また励まそうとする気持ちや冷静であろうとする男性側の姿勢が、うまく女性に伝わっていない場合もあり、温度差やすれ違いが生じやすくなってしまいます。

  • 周囲の妊娠、出産が羨ましくて仕方がなくなり、友人の妊娠が喜べません。

周りと比較してしまったり、友人が順調に妊娠・出産に至っていると自分がみじめに感じたり……。
今まではそんなことがなかったのに、周囲のことがに気になって仕方がない、という方が多くいます。
そして周囲を羨んでいる自分のことを受け入れられず、さらに落ち込んでしまう場合もあります。

流産はグリーフ反応を起こしやすい? そのわけは?

流産は、喪失体験の中でもグリーフ反応を引き起こしやすい”条件がそろっている”と言えるかもしれません。

それは、流産したことを周囲へ公表しないケースが多いため、湧き上がってくる感情や思いを外に出しづらく、もんもんと抱え込んでしまう人が多いからです。

悲しみや失望、妬み、罪悪感などのネガティブな気持ちは、無意識に押し殺しやすいものです。
どこにも吐き出せずに自分の中で抱え込んでいることで苦しみが大きくなっていきます。

そのようなクローズの苦しみを分かち合えるキーパーソンは、主にパートナーになるでしょう。

パートナーが上手に寄り添っていくことが出来れば、流産後の女性にとって、かなりのレスキューになるはずです。

ですが、パートナーも喪失体験の当事者ですので、同じようにグリーフ反応が出ていてもおかしくありません。

また、一言でグリーフといっても、人それぞれ全く異なる影響が出てきますので、夫婦であっても分かり合うことはとても難しいのです。

ですから、パートナーが流産後の女性に対して余裕をもって支えていくということはハードルが高いことだと言えます。

お互いに無理せずに、分かち合いながら、この局面を過ごしていけると良いですよね。

最後に、流産を経験されたカップルに向けて、一緒にどのように過ごしていくことが望ましいか、私の考えを提案させていただきます。

流産を経験したカップルのためのセルフケア

◆まずは、十分に休息を取りましょう。
流産を経験された直後の心身のケアはとても大切です。
強い悲嘆の気持ちがあることで、次の妊娠に対して前向きになれなかったり、恐怖心が消えない場合もあります。
逆に、早く授かりたいと気持ちばかりが焦ってしまうこともあります。
そんな段階の時は、まずしっかりと休みましょう。
心と身体に対して十分な休息と栄養を与えてください。
お互いの心身がリラックスしエネルギーチャージが整うまで、ゆったりと過ごしましょう。

◆この人にならどんな気持ちも出して大丈夫、と思える関係を目指して。
どんな気持ちも吐き出して大丈夫と思える人がそばにいてくれたら、大きな安心を感じることでしょう。
アドバイスや解決策を考えなくても大丈夫です。
ただ、心の中にあった思いや感情を共有しあうだけでいいのではないでしょうか。
この人の前ではなんでも言える……お互いにそう思える関係性を持てていけたらいいですね。
 

◆会えなかった赤ちゃんに出来ることを考えてみる。
ごく初期の流産だった場合はご遺体もないため、お葬式や火葬を行うことも通常はありません。
だからこそ、赤ちゃんのために何もしてあげることが出来なかったと悔やむ気持ちが出てきたり、現実を受け入れることが困難になっていることもあります。
親として赤ちゃんに何かしてあげられないか、その思いを水子供養のような法要の形で表すことも出来ますし、ご遺族の中でしっくりくるやり方を考えて、気持ちを表現することができます。
流産した日を命日として、毎月、月命日にはお花を供えて手を合わせている、という女性もいました。
そのように失った命に対して何か一緒に弔いの行動が出来ることは、悲しみを分かち合うことに繋がります。



セラピーにお越しになった方に、グリーフのことを知っていただいて「あなたはおかしくなったわけではないのですよ」とお伝えすると、「困惑が減りました」とか「安心しました」とおっしゃっていただけることがあります。

自分の中で起きている状態が理解できると、それだけでも楽になるものです。

流産後、辛い状態にいる方にひとつでも参考にしていただけることがあれば幸いです。 
 

(書いた人:穴澤由紀)

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