今、必要なのは悲しみに寄り添える人材を増やしていくこと(後編)

Ken's Room

~ グリーフサポートバディの育成とデジタルデバイスを使った進化系グリーフサポートへ ~

人と人が悲しみを分かち合い、豊かに生きる社会にするためには何が必要でしょうか?
 (株)ジーエスアイ創立20周年、グリーフサポートセミナーを始めて15周年になる2024年。
「グリーフ」という言葉も少しずつ広まっていますが、まだまだ世間的には知らない人も多く、だからこそ、人材の育成が必要だと語る、橋爪謙一郎ジーエスアイ代表。

前編に引き続き、今回は「グリーフサポートバディの育成」と「進化するグリーフサポート」について聞きました。

グリーフサポートバディは東日本大震災がきっかけで誕生した。

Q「グリーフサポートバディ」が誕生したきっかけを教えてください。

橋爪:ジーエスアイがいつからセミナーを行なっているかというと、アメリカの留学から帰国した僕が、2006年に企業研修の一環として、グリーフサポートの講座を行なったことが始まりです。
その後2009年から一般向けにセミナーを提供するようになりました。

受講生が増えてくると、何か目標になる資格を作ってほしいという要望も出ていましたが、グリーフサポートバディという認定資格を作ろうと決めた直接的なきっかけは東日本大震災です。震災の翌年2012年に、16名のグリーフサポートバディ第1期生が誕生しました。

あの時、あまりに大きな被害のために、本当にさまざまな人々が現地に入りました。心の専門家と呼ばれる人だけでなく、グリーフのこともよくわからない人も含めて、居ても立っても居られない気持ちや善意で、たくさんの人が現地に入ったのです。その結果、どうアプローチしていいかわからない、と戸惑う人もいたし、さらには困っている人の役に立ちたいと思ってやっていても、グリーフの知識を持っていないことによってかえって被災者やご遺族を傷つけてしまうこともありました。そして支援に行った本人自身が傷つくこともありました。

だから、僕はその時、ちゃんとしたグリーフの知識を持つ資格者を作ろうと思ったのです。それはサポートを提供する側のためでもありました。グリーフサポートを行う時には、提供者自身が、自分のコンディションに気をつけないといけないということも、当時はまだそんなに知られていなかったと思います。

Q 大震災がきっかけだったのですね。現在グリーフサポートバディは何名で、男女比や、全国の分布などはどのようなものでしょうか?

橋爪:正式なセミナー開始から15年が経過した現在の資格取得者「グリーフサポートバディ」は、2024年現在152名、男女比は4:6くらいです。

バディの資格は女性の方が多いのですが、葬儀社の企業研修等を通じて取得するのは、男性の方が多く、受講生からの紹介がきっかけの方は女性の方が多いですね。全国的には、やはり東京を中心に都市圏が多く、47都道府県に均等に存在しているわけではありません。全国どこにでもバディがいれば、
助けを求める人のためにすぐ稼働できると思うので、人数の少ないところは増やしていきたいと思っています。

現在は、能登地震の影響がまだまだ続いています。そんな中、僕がコンサルティングをしている石川県金沢市の葬儀社さんが、グリーフサポートに熱心で、仕事に取り入れてくださっていることをとても心強く思っているところです。

東日本大震災の後、新潟や熊本でも災害がありましたし、事故に関してはいつでもどこでも起きる。そんなふうに全国、いつどこで何が起こるかわからないので、人々がアクセスしやすいように、各県に必ずバディがいるようにしたいですね。

IT技術も活用して、新しいグリーフサポートの形を創っていきたい

Q 毎日の何かしらの事件、事故の報道を見て、橋爪さんは心を痛めているわけですね。大切な誰かを失うというのは、目に見えない心の怪我をしたのと同じ状態なのに、その手当てが行き届いていないということですね。

橋爪:はい。現在は「怪我をしたら病院に行くけれど、グリーフは一人でなんとかしろ」、と言っているのと同じことですよね。また、年間数万人、自死で亡くなる方がいて、その周りには家族をはじめとした故人に繋がっている人々がいるのです。グリーフの影響を受ける人々への支援として、何か届くものがあればいいなと思っています。

そこはテクノロジーを活用していくべきだと思うので、「チャットボット」的なものでもいい。「私の今の状態はこんなに辛いのですが、大丈夫ですか?」とチャットで質問すると、何回かのやり取りの最後にグリーフサポートの情報が届いたりするようなもの。そんな簡単な仕組みでもいいと思うのです。

大切な人を亡くした直後は、心身のバランスが取れずに、認知的にも色々と影響を受けます。人の言葉や音などに敏感になる一方で、何を読んでも頭に入ってこないということもある。そんな時に自分でグリーフの本を読め、自分でなんとかしろと言われても、無理だと思うのです。文章の中の一つの単語に引っかかってしまって読み進められないという人もいるのです。

ですから、その対処の基本としてグリーフサポートができる人材を育成していくことも必要ですし、同時にグリーフの正しい情報に、必要な人がアクセスできる仕組みを作っていきたいのです。それが自分の研究の動機の一つでもあるのです。

Q 自分自身がグリーフの状態にあると気づくことからが始まりですね。

橋爪:そうです。一番重要なのは、本人が自分の状態を認知することだと思っています。IT技術でそれを後押しできるといいのです。そもそも、自分が調子が悪いことすら、気づきにくいでしょう? 辛い事があった時、日本人はワーカホリック(仕事中毒)になりがちです。仕事している間は忘れることができるから、悲しみを紛らわせるために余計仕事に没頭してしまって、気づきにくくなる。その瞬間は、グリーフの悲しみから逃れられるかもしれないのですが、どこかで自分の感情や感覚にしっかり向き合わないと、さらに心身に影響が出ることがあるのです。

Q 技術やテクノロジーを利用して、様々なグリーフサポートの新しい形を創るために、大学院で研究しているのですね。

橋爪:はい、その通りです。グリーフサポートバディの資格を持っていても、そしてどんなに勉強したとしても、相手の状態に気づけるかどうかというのは、個人差があるんですよ。

「あ、今この人ってこんな感じかも」と想像できる人とできない人がいる。問いかけや質問の仕方をちょっと変えてみることで、サポートが必要な相手に自分の状態を意識させたり、目を向けさせたりする働きかけができるバディもいるし、そうでない人もいる。グリーフサポートは、提供する側と受ける側の相性というのがとても大切ですが、それはグリーフサポートに限らず、どんなメンタルケアでも一緒です。だからこそ、そのギャップを埋めるために、グリーフの状態を把握したり、支援ができるデバイスがあったらいいなと思うんです。

声を上げられない人の悲しみをサポートできる社会へ

Q 確かにそうですね。相性や得意不得意はあるので、サポートの専門家として、自分の行き届かない部分の落差を埋めるものがあるのは心強いですね。

橋爪:バディがプロとしてサポートをする時に、さらにこのツールがあることでより良いサポートができると思うのです。サポートが上手くいかないと、ご遺族は「やっぱりわかってもらえない」と、口をつぐんでその場から去っていくだけでしょう。僕は、本当に苦しい時にちゃんとわかってくれる人がいるという環境が普通にある社会にしていきたいと思っています。

記事を書いた人:目白台書房・上坂美穂

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悲しみに寄り添える人を育て、社会のあちこちで活躍を促すことも、ジーエスアイでは「グリーフサポート」の一環だと考えています。

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