小規模化、簡素化が進むお葬式。人々が求めている本当の声とは何でしょうか。

葬祭サービス

お葬式の形はここ10年ほどで大きく変化しています。
  
葬儀に関わっている方にとっては、お客様のニーズが多様化し、これまで通りのやり方では応えていくことが難しいと痛感されていらっしゃるのではないでしょうか。

今日は、これから求められていく葬儀とはどういうものなのかについて考えてみたいと思います。
   
これまでのお葬式といえば、通夜、葬儀・告別式の全てを執り行い、ご遺族に限らず、友人・知人、地域や職場関係など、幅広い層が参列されるお葬式、いわゆる「一般葬」と言われる形で執り行う方がほとんどでした。
 
今でも全国的にみると一般葬が一番多く執り行われていますが、傾向としては「家族葬」の人気が高まっているようです。

 
鎌倉新書の「第3回お葬式に関する全国調査(2017年)」によれば、一般葬が占める割合は少しづつ減ってきており、代わって「家族葬」が増えてきています。
 
 
近親者のみの少人数で行われる「家族葬」のシェアは約40%弱まで上ってきています。
 
「直葬」(通夜や告別式などの儀式を省き、ごく親しい方数名で火葬のみを行う葬儀のこと)も、全国平均で約5%ほどのシェアがあり、一定のニーズが存在していることがうかがえます。

とくに東京都だけで見てみると、この小規模化、簡素化に対して、より顕著な傾向が出ています。
「家族葬(42%)」と「直葬(9%)」「1日葬(6%)」を合わせると57%と過半数を超え、「一般葬(43%)」を大きく上回っています。

このように数字だけを見ると、お葬式はどんどん小規模化、簡素化されているように見えますが、この背景に働く消費者心理はどのようなものなのでしょうか?

 
葬儀の簡素化が進む要因として、一般的にこのようなことが言われています。

  • 経済的な理由
  • 人との繋がり、コミュニティの希薄化が進み、(親族以外で)葬儀に来て欲しい人が少なくなっている
  • 従来の(高額で形骸化された)葬儀への違和感
  • 宗教離れ

どれも納得のいく要因ですが、さらに掘り下げていくと、それぞれ個々のニーズが枝分かれしていくのでしょう。
  
特に「経済的な理由」の中には、単に「お金がない」という意味だけではない複雑な思いが見え隠れしているように感じます。
 
 
「葬儀にかけるお金がない」というよりも、「無駄なところにお金をかけたくない」という意味で使っている人も一定数いらっしゃるのかもしれません。
 
金銭的余裕が全くないわけではなく、価値を見出せないところにはお金を出したくないということです。
 
 
というのも、私の身近な人の話を聞いていると、納得のいくお別れをするために、あえて小規模な家族葬を選んでいらっしゃる方が少なくないからです。

「故人のことを知らない人まで参列するような大規模な式をすることに意味を感じない。盛大にやる必要はないから、人数は少なくても本当に近しい人達で、心をこめて送ってあげたい」
 
そう考えて、家族葬を選ぶご家族も増えているように思います。

このような価値観を持って家族葬を選んでいる人達は、逆に、必要なものにはお金を惜しまずに使いたいと思っている層でもあります。


また、もう一つの側面として、故人らしさやその家らしさを大切にした葬儀をしたい、というニーズも大きくなっているようです。


鎌倉新書の調査によれば、葬儀の内容は「慣習や習俗に従って実施する」よりも、「本人や家族の意思を尊重して実施した」と答える人の割合が増えています。

これは、お仕着せスタイルからの脱皮を意味しており、より自分たちらしさが反映されたオリジナリティのある葬儀を求めているということが顕著になってきているのだと思います。

 
時代の流れとともに、人々の考えや価値観も変わっていきますから、葬儀の形も変わっていくのは当然です。
その変化に対応するためには、人々が本当に求めていることを見極めていく必要があります。

 
小規模化、簡素化が進んでいる背景には、「意味を感じるものにしか投資したくない」という人々の成熟したニーズが存在しているように私は思います。

対象物のもたらす意味や価値を理解しているかどうかで、私達はお金の使い方やマインドが大きく変わります。

 
必ず私を良い方向に導いてくれる商品だと思えて、適正価格だと分かるのものには、喜んでお金を出せますが、そのような確信が持てない時には、疑心暗鬼になったり、より安く買えないだろうか、など経済合理性の方ばかり意識してしまうものです。

葬儀に置き換えてみると、今の消費者心理は、まさに疑心暗鬼になっていて、葬儀に対して明確な意味や価値が見いだせない人々が多くなっているのかもしれません。


「お金がないわけじゃない。お金を使いたくなるような価値をちゃんと教えて欲しい」
そんな心の声があるとしたら、葬儀を提供する側は何ができるのでしょうか。
 
 
葬儀の本質的な意味や価値について提供する側がしっかりと理解し、伝えていく努力を続けていかなくてはいけないのでしょう。
   
 
脈々と受け継がれてきた葬儀の要素には、ひとつひとつに意味があり、何かしらの役割を果たしてきました。
悲しみと折り合いをつけていくための先人の叡智が詰まっています。
かといって、形式的なものに縛られ過ぎる必要もなく、主体的に創造的に表現できる場が葬儀であるはずです。


葬儀が持っている本質的な意味をお伝えできないまま、形式的な流れだけで葬儀の準備を行ってしまうと、ご遺族の納得感や満足感は得ることは難しいのではないでしょうか。

「売りたいものだけ売っていて、買いたいと思わせてくれない」という状況を作り出してしまいかねません。

葬儀の持つ役割とは……

そもそも、葬儀の持つ役割とは何でしょうか。

ジーエスアイ代表の橋爪謙一郎は、著書『お父さん、「葬式はいらない」って言わないで』では、葬儀には4つの機能があると述べています。
 
この四つが相互に関係しあうことで、遺された人達の助けになっているということです。

葬儀とは……

1.遺された人たちがあらためて、故人の人生を振り返ることができる機会
人間関係の節目として、亡くなった人と縁のあった人々が、その思い出を語る時間である。故人に生前の交友を感謝するお礼の場であり、「いなくなってしまったこと」を認識する機会でもある。


2.故人に感謝する念を抱く場
思い出を語るうちに、故人のおかげで今があると思えて、素直に感謝の言葉が言える場である。その要素が顕著なのが社葬。

3.悲しい、悔しいといった思いに遠慮なく浸れる時間
葬儀の場では取り乱しても、とやかく言う人はいない。体面などを気にしてうまく感情を処理できないことが多かった日本人も、誰も遠慮することなく悲しみに浸ることができた。悲嘆のあまり取り乱したり、葬儀後、喪主が酔いつぶれてしまっても「あぁ、しょうがないよな」と周囲の人が受け入れ、支えてくれた。

4.霊の処理や供養など宗教的な意味
成仏や鎮魂などを念じて死者を送る儀礼。昔から生と死について意識する機会であり、人知を超えた存在に思いを寄せる場でもあった。

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日本人は明確な信仰がない人も多いので、お葬式=宗教的儀式と限定してしまうと、その必要性を感じないかもしれませんが、死者に対する思いを表現し分かち合える場である、と捉えるとすっと腹落ちしますね。

お葬式は亡くなったご本人のために執り行うものですが、一方、遺された人達のためでもあるのです。

死別の現実を受け止め、その人がもう存在しない日常に戻っていくことは容易なことではありません。悲しみから心身の調子を崩したり、生活や人間関係などに支障が出てしまう人もたくさんいらっしゃいます。

葬儀は、悲嘆の苦しみから少しづつ折り合いをつけていくための最初の一歩です。


橋爪は、著書の中で、お葬式は「故人を偲び、故人に対する悲しみや感謝を表す場」であり、残された人達にとって新たな充実した日々を送るためのファーストステップとなると定義しています。

(以下、『お父さん、「葬式はいらない」って言わないで』より引用)

アメリカの葬儀では、中盤あたりで「シェア」という時間をよく設ける。

言葉の意味通り、故人との思い出を参列者みんなで共有する時間である。

~中略~

そこには笑いがあったり、悔恨があったりと、いろいろな話が飛び交う。みんなで喜怒哀楽、さまざまな感情を出し合うのだ。

「故人を偲び、故人に対する悲しみや感謝の気持ちを表す場」は、新たな充実した日々を送るためのファーストステップとなるのだ。

これが葬儀最大の意味である。

ところが今は葬儀の形骸化によって、そういった本質的な部分が忘れられている。

だから「葬儀なんてしなくていい」という短絡的な結論になってしまうのだ。

しかし、この場面がないと、前向きに生きる新しい自分が作れない。あるいは生きる意味や生きがいがわからなくなるのだ。

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多くの人の価値観が成熟していっている今、これから、葬儀もどんどん本質が問われていく時代になると思います。
 
お仕着せではなく、多様化したニーズに合わせて行くことのできる対応力が求められていくのではないでしょうか。

そして、葬儀社にとってのお客様とは、「ご遺族」と呼ばれる方々です。

急に「ご遺族」と呼ばれ戸惑いや困惑を抱えている方々に、一番近くで寄り添えるのが葬儀社だと思います。

大切な人を失った時の心と身体の状態を理解していなければ、適切なサポートをすることは出来ません。

グリーフの理解は、葬儀の質を変えるはずです。

ご遺族から「ありがとう、いい葬儀だった」とおっしゃっていただけるために取り組めることは、まだまだありそうですね。

葬儀の意味、ご遺族のサポートについてじっくり考えてみたい方へ

葬儀の意味や、儀式を通じて出来るご遺族のサポートについて考えてみたい方へ、文中でご紹介したこちらの本をお薦めします。

グリーフサポートとエンバーミングの第一人者が説く「遺族のための葬式必要論」
ご遺族にもたらす葬式の心理的な効用、グリーフサポートの観点から葬儀の意義について語っております。

「お父さん、「葬式はいらない」って言わないで」

橋爪謙一郎著
新書版205ページ
出版社:小学館
定価:778円(税込)

こちらからお買い求めいただけます。

【ジーエスアイからのお知らせ】
今年もジーエスアイは、8月22日~24日に開催されるエンディング産業展(ENDEX)に出展いたします。
ジーエスアイ主催の無料セミナーを各種ご用意しておりますので、今後このグリーフサポートラボでもお知らせをしていきますね。
橋爪のセミナーもございます。
毎年、満員御礼の人気セミナーになっております。ご希望の方はお早めにご予約ください。

*エンディング産業展(ENDEX)のご参加には招待状が必要です。ご希望の方は、お問合せページからご請求ください。

(書いた人:穴澤由紀)

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