LINKIN PARKチェスター・ベニントンの死に寄せて

【LINKIN PARK チェスター・ベニントンの死に寄せて】

2017年7月20日信じられないニュースが世界を駆け巡りました。


アメリカのロックバンド、”Linkin Park”のボーカリスト、チェスター・ベニントン(Chester Beninngton)が自死を遂げたと知りました。


本来なら昨年の11月に久しぶりに来日し、大好きな日本のロックバンド、”ONE OK ROCK”と一緒にライブをする予定だったので、ライブを心待ちにしていた僕自身にとってもショックが大きく、なんとも言えない思いをしたことを今でも忘れられません。


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彼自身が、歌う、叫ぶ「今という時代の中に蔓延する『憂い』や『閉塞感』、『苦悩』」のありのままの歌詞の中で、僕を含めた多くの現代人の苦労を体現してくれていた存在だったからこそ、多くの人にとっての救いのような存在だったのかもしれません。


グリーフの一つの局面である「ショック」な状態で、正直信じる事ができず、現実感も感じなかったので、なかなか文章にすることもしたくなかったし、すること自体ができなかった感じがします。

しかし、バンドメンバーで、本当に兄弟や同志のような存在であるマイク・シノダが新譜を出すというニュースを聞き、そして、早速音源を聴いたので、今回の一連の出来事を振り返りながら、その中で気づいたことを書きたいと思います。


彼が自らの人生を終えたその日(7月20日)は、彼が敬愛していたクリス・コーネル(Chris Cornell)の誕生日でした。

彼は「007 カジノ・ロワイヤル」の主題歌「You know my name」を歌っていることでも知られるボーカリストで、昨年の5月18日に鎮痛剤によって薬物依存を再発し、それが元で自死してしまいました。


クリス・コーネルからたくさんの影響を受けたチェスター・ベニントンは、彼の葬儀に参列をし、ハレルヤ」という歌を彼に捧げている(※1)のですが、それから2ヶ月もたたない内に、しかも敬愛するクリス・コーネルの誕生日に自らの命を絶ってしまったということは、世界中にいるファンにとって大きなショックでした。そして、僕自身もその一人です。


多くの人にとって、大切な人の死別があまりに大きな存在な時に、「自分も…」という思いを持つ事は、不思議な事でないのですが、残念な思いと同時に悪い冗談やフェイクニュースであってほしいと心から願いました。

しかし、それは事実でした。その時に、僕自身が心配したのは、熱狂的なファンが後を追うように自傷行為に走ったり、自死を遂げてしまったりするような人が出ない事をこころより願いました。彼は、多くのファンにとって心の支えのような存在だったので、そうならないことを本当に心配していました。


それ以上に家族やバンドメンバーが、誰よりも激しい喪失感、グリーフを味わっていることは間違いがなく、彼らがどんな気持ちでいるのか、一ファンとしても本当に気がかりでした。


そんな彼らは、まずチェスター・ベニントンを亡くした後、彼に宛てたメッセージをInstagramで発信しています。(※2)

自分のことだけに目を向けていたとしても、誰にも批判はされないと思うのですが、「彼の死」をきっかけに、多くの人に「うつ」について、そして自分たちが今体験している状況にどう向き合っていくのかを、自らの体験やあり方を通じて全世界に発信を続ける活動に取り組もうとしている姿は、彼らにとっての「グリーフワーク(Grief work)」、いや、自分たちの気持ちを共有して広げていくという意味で、ある意味「モーニングワーク(Mourning work)」の取り組みだと感じました。


自分の素直な気持ちを発信し、共有の輪をつなげていくことで、多くの人の支えになるという素晴らしい例だと思います。

僕自身が、恩師アラン・D・ウォルフェルト博士から教えていただいたことの中で、とても大切にしていることの一つに、「自分にとっての大切な話しをすること、表現することの驚異的な力(Awesome Power of telling stories)」というものがありますが、それは、大切な人を喪ったあとのご遺族や、このような取り組みを見て強く実感をしました。


まず、バンドメンバーはチェスター・ベニントンの死後、彼に宛てたメッセージを発信していました。さらに、奥さんであるタリンダは、亡くなる数日前に家族と一緒に撮った笑顔の写真をツイッター上にアップしました。この写真をみれば、外見だけで、「どんな人が自死をするのか?」なんて判別がつかないことが分かるはずです。


写真とともに、彼女はこんなコメントをつけています。「これは私の夫が自殺する数日前の写真です。自殺しようという考えが頭のどこかにあったのかもしれないけど、それは誰もわかりません」
うつや自殺予防対策についても既存のものでは十分ではないのかもしれない事を教えてくれている様に思えてきます。


そして、バンドメンバーたちは、ファンの人達に、「うつ」を初めとする心理的な病気についての理解を深めてもらうために、そして「後追い自殺」をしない様に1つのホームページを立ち上げました。

 
リンキン・パークは、元々ファンをSoldier (戦士)と呼び、閉塞感を強く感じている若者たちが様々なものに闘いを挑んでいる彼らにとっても大きな支えを失ってしまったファンを支えようとしていました。

その中でも、チェスター・ベニントンは、最もファンを愛し、ファンに愛された「愛情と優しさにあふれた存在」だったからこそ、大きな損失だったことは間違いないはずです。

そんなバンドメンバーのメッセージに呼応する様に、ファンたちはチェスターが、誇りに思う様な生き方をして行こう、という取り組みを昨年8月に始めています。

このようなストーリーを表現する事が連鎖をして、そしてプラスの循環に結びついていくような効果をもたらす事ができるように、これまでもご遺族と向き合い、そして、グリーフサポートの担い手を育成する中でも常に意識をしてきました。彼ら取り組みは、僕に勇気を与えてくれたようにも感じました。


そして、つい最近、バンドメンバーのマイク・シノダが “Post Traumatic”という彼自身の心の中の傷、葛藤、そしてグリーフワーク自体を作品にしたアルバムを、2018年6月15日に発売することが決まりました。

ある時期から、マイクの奥さんがレコーディング等の創作活動を始めているということをSNSでアップしていたのを見ていたので、宇多田ヒカルが、お母さんとの死別の後に “Fantome”の中で、今の感情を表現する事でグリーフワークをした様に(きよみのみかた参照)、彼自身もその様な作品を作っているはず、いや、是非そうして欲しいと願っていたのでした。


そして、そのアルバムは、本当に彼自身が大切なバンドメンバーで、親友、兄弟そして、同志のような、本当に切っても切り離すことのできないような存在を喪った後、それにどの様に向き合い、そこからどの様に立ち上がって行こうとしているのかを表現することを通じて、逃げることなく、グリーフに向き合い、主体的に関わろうとする試みであるはずと確信していました。


予想通り、このアルバムは、「グリーフや心の闇からの旅であって、グリーフや闇に向かっていく旅ではない」という事をテーマにしたものだと言っています。同じ様な体験をしている人にとって、一人ではない事を感じて欲しいし、大切な人を喪った経験のない人は、自分がいかに幸運なのかを噛みしめて、感謝をして欲しいと語っています。


アルバムに含まれる曲がどの様なものになるかは、まだ公式発表されていないのですが、現時点でわかっているものには、以下の曲があります。

  • “Place To Start”
  • “Over Again”
  • “Watching As I Fall”
  • “Crossing A Line”
  • “Nothing Makes Sense Anymore”


「僕が作り上げるものは粉々に壊れてしまうかもしれない」と怖れるのはもう嫌だ、終わりなんて知りたくない、僕が欲しいのは「始まりの場所」だ――とモノローグのような調子で切々と歌われる“Place To Start”。


昨年10月27日に米LA・ハリウッドボウルで開催されたチェスター追悼コンサートの舞台に立つまでの感情を包み隠さずラップ越しに述懐した“Over Again”。


そして、重厚かつ不穏なリズムトラックとともに「《彼ら》は僕が墜ちていくのを見ている」と自分を取り巻く世間の視線に対する違和感を露わにした“Watching As I Fall”。


盟友チェスターを喪ってからの日々の中で、どんなことを感じていたのかが曲調からも感じられました。

何も考えなくもいいです。
この曲を聴いて、感じるままを表現してみて欲しいと思います。
涙が溢れてきたとしても我慢などしないで欲しいと思います。


一方、奥さんのタリンダは、2018年3月20日の誕生日に合わせてメンタルヘルスの支援キャンペーン “#320ChangesDirection”を立ち上げました。

これは “The Campaign to Change Direction”という支援活動の一貫として立ち上げられたキャンペーンで、イギリスのヘンリー王子や、俳優のリチャード・ギアなども賛同する世界的な活動で、精神障害を持つ人の特徴として考えられている「大きな性格の変化」、「気分の変動が激しい」、「引きこもる」、「低い自尊心」、「絶望感」などの5つの指標を広く知らせ、身近な人にそうした兆候が見られたら支援の手を差し伸べよう、というもので、彼の死から何かを生み出そうという希望を感じます。


多くの人が、こうした彼らの取り組みによって、一つでも良いから何かを感じ取ってほしいと思います。


僕がこの一連の流れの中から、改めて感じた大切なことは、「心の中に抑え込むのではなく、自分らしく表現する」することでした。

これは、彼らの様なアーティストだけにしかできない事では決してなく、誰にでもできることだと思います。

そして、それがどの様な表現であったとしても、その中からしか気づけない事、さらに、その人それぞれにとって、生きる勇気の源になるような大切な「宝物」としての思い出になったり、自分の生きる意味であったり、新たな役割を見つけるきっかけになったりするはずです。

今の自分にできるだけでも、少しだけでも構わないので、自分の気持ちを表現をしてみてください。

そして周りにいる人は、そんな勇気を出して表現された思い、感情、思い出を大切に受け止めてあげて欲しいと思います。


1ファンとして、大切な人を亡くした気持ちを表現する時間を持つことの大事さを、このblogを通じて発信しているという事は、チェスターに「おー。俺の生き方をこんな風に繋げてくれているな。ありがとう」って言ってもらえている気がするし、もし、このblogをシェアしてくれるのであれば、皆さんにとっても彼の思いをつなぐ取り組みになるのではないかと心から信じています。

※1 チェスターがクリス・コーネルの葬儀に参列した動画

※2 バンドメンバーからチェスターへのメッセージ(Instagram)

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(書いた人:橋爪謙一郎)

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